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第6章「封印」



「これが我らの神……なんと雄大なお姿なのだ!!」
石化した御神体の前でアオギリは深い感動を覚えた。

1500mを越す深海に隠すように存在していた洞窟。
その内部には驚くべき事に空気が充満し、人が出入りできるようになっていた。
その最深部で眠っていたのがこのカイオーガだ。
この位置を特定するのに数年かかってしまったが、ようやくその姿を拝む事ができた。

「後はこれを与えれば復活する、そうね?」
赤髪の女性幹部、イズミが確認する。
「ああ、これこそが神への供物。海の力を秘めた幻の木の実だ。」
もう一人の幹部、ウシオが量子注入機を取り出し、アオギリへと手渡す。
中に入ったチイラの実から取り出された成分はポケモンの攻撃性を増大させる。
更に、海洋に住むポケモンにこの成分を与えると、みるみるうちにポケモンの傷が回復し、精神も高揚する事が、
繰り返し行われた実験によって証明されていた。
これならカイオーガの石化も解除できるはずだ。

「ここまで来れたのは全部お前のおかげだよ。」
神の復活を前に、感慨にふけりつつアオギリがウシオに礼を言う。
これまで、作戦の立案から科学的支援まで、ウシオが全てを手配した。
「全く、アンタは凄い奴ね。アタシなんて殆ど団の役には立てなかった。」
イズミまでウシオを持ち上げる。
「そんな事は無いさ、イズミ。私は自分の目的に向かって突き進んだだけだ。それは君にも十分出来ていたよ。」
「えっ……」
逆にウシオに誉め言葉で返されて、イズミは若干戸惑う。自然に頬も赤くなってしまっている。
しかし、イズミはウシオの本当の顔にはこの時気づいていなかった。

「さて、いよいよ最終段階だ。神の復活という我々の目的が遂に達成させるぞ!!」
アオギリが号令をあげる。
その言葉を聞いてイズミも集中を取り戻した。
量子注入機を持つアオギリの手も緊張で震える。
接触、そして注入。
木の実の力を受けたカイオーガの表皮は海よりも深い色に染まり、量子エネルギーが血液のように体を駆け巡り赤く輝く。

ゴゴゴゴゴ……
まるで洞窟全体がカイオーガの復活に呼応しているかの如く轟音に包まれる。
「さて、ようやく神のお目覚めか。
貴様の最終目的はそれだろうが、それは私の最終目的では無いのだよ、アオギリ。」
ウシオの心の声を聞いた者は、当然の事ながら誰もいなかった。


神の復活にアオギリ達が気をとられている内にウシオは姿を消した。
ゴッゴゴゴゴッ!!
轟音は尚も止まる気配は無い。壁面の岩盤は剥がれ落ち、入り口の波は荒れ狂う。
誰が見ても一目瞭然、洞窟の崩壊が始まったのだ。

ギャァオォォーォン!!
カイオーガの復活の雄叫びが響き、崩壊は加速する。
もともと、この空間が深海においても1気圧になっていたのは緊急時に人間の手でカイオーガを覚醒させる事ができるように
古代の量子プログラムが働いていたからである。
その目的が果たされたいま、この空間はもう必要がない。
力の働かなくなった空間は外圧によって潰される。

「潜水艦に戻れ!!この後の事は脱出してからだ!!」
流石のアオギリもこれ以上は危険と判断したのか、団員達に退避を命令する。
だが、入り口まで戻ってアオギリ達は異変に気づいた。
潜水艦のハッチが開かない。更に、まだ殆どの団員が乗っていないにも関わらず動き出したではないか。
「一体何が起こっているの!?」
イズミの叫びに答えるように、潜水艦の外部スピーカーから返事が返ってくる。
「アオギリよ、今までご苦労だったな。」
やはり潜水艦の中には何者かが乗っていた。
「その声はウシオ!!何故お前が……」

アオギリにとってウシオは最も信頼できる部下だった。
その男が今、アオギリを締め出し潜水艦を占領している。
「まだ理解できないのか?神が復活した時点でアクア団は用済みなのだよ。
せめてもの情けだ──貴様らは憧れの神とやらに葬られ、地獄へ落ちな!!ヒャーハッハッ!!」
聞き慣れていたはずの声が急に耳障りな雑音へと変化する。
今まで被っていた理性という仮面を脱ぎ捨てたウシオの顔は歪んだ笑みに満ちていた。
今の言葉がアオギリやイズミに与えた衝撃は計り知れない。

「ウシオ、アンタはアタシ達を騙していたって言うの!?」
「ヒャハハハ、騙す何も、最初から貴様らの仲間になった気はさらさら無い!!
これが上からの命令でもあるのだ!!」
全ては最初から計画されていた事だ。
ウシオは「奴ら」から派遣されてきた偵察員であり、アクア団への所属はあくまで形式的なものだった。
ウシオがチイラや潜水艦の情報などをアクアにもたらす事ができたのも、その背景があってこそだ。
潜水艦が潜行し始める。
「あばよ!!海の藻屑と消えちまいな!!」
潜水艦かきちんと動いているという事は、ウシオにはそれだけの仲間がいるという事だ。
アオギリ達からは完全に潜水艦が見えなくなった。
取り残された彼らはそのまま押しつぶされていく。
「ウシオォォォ!!!!」
アオギリの怨念が籠もった最後の言葉は誰にも届かなかった。



ブラックがアルバに案内された場所はマスターランクのコンテスト会場だった。
スイバはポケモンの治療が終わり次第合流する事になっている。
「オレらはもしマグマ団を阻止できなければここに来るように言われていた。
まさか本当に来ることになってしまうとはな。」
やはりアルバはマグマ団阻止失敗を悔やんでいる。
「一体ここで何を始める気だ?」
玄関ホールが静かな上にコンテスト受付の人がいない事から貸し切っているように見受けられる。
ここの貸し切り代は馬鹿にならないはずだ。流石は金持ち息子。

「まあ見てろよ。」
ガイがメイン会場の扉を開く。
「おお!!」
ブラックは思わず感嘆してしまった。
そこには数百名のトレーナー達が待機していたのだ。中にはブラックの知っている顔もいる。
「あら、ブラックさん。」
声をかけてきたのはカナズミのジムリーダー、ツツジだ。
ブラックにとってのかつての同期生である。
「お、久しぶりだな。これは一体どういう事だ?」
ブラックの頭には疑問符が絶えない。
ジムリーダーが自ら出向いてくるのはよほどの事がないと有り得ない。
「よく見ろ。他にもジムリーダーがいる。」
ガイがブラックに指図する。
確かに、見渡せばフエンタウンのアスナ、キンセツシティのテッセンなど、そこかしこにジムリーダーが確認できる。
「ガイさんも先日はどうも。」
ツツジはガイにも会釈した。ブラックにはガイとツツジの接点がわからない。

ブラックには何がなんだかわからないうちに集会は始まった。
壇上にダイゴが現れる。
「皆さん、お忙しい中よく集まって下さいました。」
うぉー、という歓声がする。なんだかんだで未だにダイゴの人気は高い。
「今日、ここに呼んだのはボクがある理由で皆様の力を借りたいと考えているからです。
現在、このホウエン地方に危機が迫っています。
その脅威の名はグラードン。ホウエンを滅ぼせる程の力を持った強大なポケモンです。」
会場がざわめく。
無理もない、ホウエンに住むものなら伝説として誰もが1度は聞いたことがあるはずの名だからだ。

「マグマ団という集団をご存じでしょうか?昨日、送り火山が奴らによって襲われました。」
既に報道されている出来事ではあるが、その事とグラードンとの関係がいまいちピンとこない人が多い。
「知っての通り、送り火山には紅と藍の2つの珠が祀られていました。
狙いはその二つの珠でした。
この珠は実は一つはグラードンを復活させる珠、もう一つはグラードンを制御する珠である事がわかっています。」
この事が何を意味するか、分からない人間はここにはいなかった。全員が息を呑む。
「既に危機は現実の物となっています。皆さん、ボクに力を貸し……」
そこで、急にダイゴの後ろの扉が開いた。
「すぐにテレビを付けて下さい!!大変な事になっています!!」
息を切らしながら入ってきたスイバはこう言い放った。

コンテスト用の実況スクリーンに注目が集まる。
電源を入れるとまず映ったのはジャケットを着た赤バンダナの男だ。
「私はマグマ団の首領、マツブサという者だ。まずは諸君にお伝えしなければならない事がある。」
どこのチャンネルもこの放送をしている。
恐らくは広域の周波数帯で電波ジャックを行っているのだろう。
「我々は今まで幾度と無く各都市政府に対して我々の公認化を要求してきた。
しかしその要求を都市政府が了承する事はなかった。
それどころか、政府は我々に対して弾圧を加え始めたのだ。」
陸神教会(マグマ団の宗教上の名)のようなカルト教団を都市政府が公認するはずがない。
そもそも先に企業への襲撃事件を起こしたのは向こうの方だ。
団体公認の届け出を出した時には既に陸神教会はテロ組織として都市政府に認識されていた。

「だが、喜べ、諸君!!弾圧に決して屈しなかった我らに神は微笑んでくれた。
そう、我々は遂に、神の力を手に入れたのだ!!
もうすぐ、裁きの時が始まる。神は大地を信じぬ者に鉄槌を加える。」
珠が手中にある今、神が鉄槌を下すのではなく、マツブサが命じてやらせるといった方が正しい表現だろう。

「もし、以下の要求に従い、降服するなら神は破壊を行わない。
まず第一に、現各都市による分権政治体制の解体。
次に、ホウエンを統一した新たな国家の樹立。
そして最も重要なのが、陸神教会の国教化!!
以上の3つが飲まれない限り、24時間以内に破壊が始まるであろう!!」

上記の要求の意味、それはマグマ団によるホウエン地方の政治的支配に他ならない。
このような要求はどの都市も拒否するだろう。
だとすると、グラードンは確実に見せしめでどこかの都市を滅ぼす。
恐らくはグラードンの眠る祠のあるルネシティだ。
だがマツブサは一つ重要な事を忘れている。
即ち今、目覚めの祠は厳戒体制を布いており、容易には侵入できない状態にあるという事だ。

「神の復活は最終段階となった。
最後に、我々の祈りをこの放送に乗せ、締めくくるとしよう。
そして、我らの配下になる事を望む者がいれば、共に祈ってくれ。その祈りが神の力となる!!」

カメラの視点が移り、今度は御堂のような場所が映像に出る。
「ЁィィС廊дあоххяゐね√刀轤オゝ観ヶ々ヵ…ぬ♂℃」
何百人という赤バンダナ集団がそこで訳の解らぬお経のような、呪文のような、そういった物を延々と唱え続けている。
彼らの視線は奉ぜられている珠に向かっていた。
珠は怪しく輝きを放っている。
そのままこの放送はエンドレスなお経大会となってしまった。

「まずいな。こんな手段を用意していたとは……」
モニターを見つめていたガイが呟く。
「こんな事で本当にグラードンが復活すると思うのか?」
確かにこの放送の電波に思念を乗せ、グラードンが復活すれば、祠の警備は意味の無い物になってしまう。
ブラックはルネのオルドビス本部が気になった。
「わからない。ただ、珠が光ったのは何かのサインかもしれない。」
「ただボクらには圧倒的に情報が不足している。どうにかならないものか……」
いつの間にかダイゴも壇から降りて一緒に放送を見ていた。

と、丁度良いタイミングでブラックの通信機に連絡が来る。
コウからだ。ボリュームを上げて、周りのガイやダイゴにも聞こえるようにする。
「状況は?」
ブラックの質問に対する答えを予めコウは全部調査してからの通信なのだろう。
全く時間をおかずに答えが返ってくる。
「多分ブラック達が考えているよりも遙かに悪い。
30分前、深度1500mの海底で小規模な地殻変動が観測された。
不審に思って周辺を人工衛星で捜索すると、信じられないような巨大な量子反応を感知した。」
「30分前?」
マグマ団の放送が始まる前だ。

「知っての通り、量子反応はそのポケモンが持つ情報量に比例する。
観測されたそのポケモンの情報量は数エクサバイト。
世界最高性能の量子メモリの容量に匹敵する。」
そのポケモンは通常のポケモン数万匹分の情報量を持つと言っているのだ。
「まさかグラードンが……?」
「いや、違う。こいつはカイオーガだ。」
一同に衝撃が走る。アクア団の方には全く注意を払ってなかったのだ。
そもそも、珠がなければカイオーガは復活しないと誰もが高をくくっていた。

「マズいな。こっちはマグマ団にも対抗しなければならないのに。」
ブラックをはじめ、その場の人間は対応策を必死に考える。
「カイオーガは今ゆっくりと浮上をしながら北へ進んでいる。
このままだと後20分程で水面に到……」
コウの声が急に止まった。背景雑音はそのままなので通信そのものが途切れたわけでは無いようだ。
「どうした、何があった?」
「し、少々驚いてしまっただけだ。
良いかブラック、落ち着いて聞いて欲しい。今観測した最新の情報だ。」
再び増した緊張感に周囲の人間も唾を飲む。
「やはり先程の放送の影響でグラードンも活性化している。
このままだと後15分もしないうちに復活してしまうだろう。」
「!!!!!!!!」
これにはダイゴを含め、聞いた全員が狼狽えた。
最悪の事態。グラードンとカイオーガの同時復活を止める事など如何にして止められるというのだろう。

「伝説ではグラードンとカイオーガが接触したらホウエンは数十年もの間、気候変動が終わらなかった。」
とダイゴが言う。
「対策は無いのか!?」
ブラックも落ち着いてはいられない。
「有るには有る。2体を再び封印する事だ。
だがそのためにはモンスターボールによる捕獲が必要なんだ。」
「それはこっちでも同じ結論になった。」
と、コウ。
「でもそれは不可能とか言ってなかった?」
スイバが以前のミーティングを思い出す。
「ああ、グラードンとカイオーガには特殊な防御プログラムが付加されているからな。
珠によって多人数の意志を統合しないと操れない設定で、個人の意のままには操れないようにしてある。」

「確かに、コウ君の言う通り、一般人にはグラードンとカイオーガは扱えない。
ところが今こちらにはそのプログラムを解除出来る人間が二人いるんだ。」
と、ダイゴは目の前の人間の肩を叩いた。
ブラックにもある程度予想できたが、その二人とはガイとアルバだった。
「なるほど、しかも二人もいるなら話が早い。
メンバーを2つに分けてそれぞれのポケモンに対処できるな。」
「ならグラードンの対処は……」

コウとダイゴは作戦の立案をそのまま3分くらいで済ませてしまった。
骨子に不安はあるものの、現在行えるなかでは最も合理的な作戦だ。
「と、いうわけでこっちはマグマ団の電波を妨害する。
その影響でしばらく無線通信ができなくなるから、後の事は頼んだぞ、ブラック、スイバ。」
コウはこれからマグマ団の放送電波を妨害し、少しでもグラードンの覚醒を遅らせる気だ。
計算上はこれで後1時間は復活を遅らせる事ができる。
しかし、どんなに妨害してもカイオーガとグラードンの接触は早くて5時間後、遅くとも7時間後だ。
現場までの移動も考えると残された時間はあと3、4時間という事になる。
急いで行きたいところだが、その前にやらなければならない事がある。
ダイゴは再び壇上に立った。

会場では先程の放送の影響か、憶測が飛び交い、とてもじゃないがまともな議論も出来そうに無い状態になっていたがダイゴの登場で静まった。
「皆さんに知らせなければならない事があります。
カイオーガとグラードン、伝説の2体のポケモンが復活しました。」
会場が再びざわめき出す。
「落ち着いて下さい。これに対して、ボク達はこの2体を封印する作戦を決行する事になります。」
しかし会場の反応はいまいちだ。
さすがにグラードン、カイオーガと対峙するには抵抗がある人間が多いのだろう。

会場のトレーナーの大半がグラードン、及びカイオーガの討伐に参加する事となった。
そしてダイゴから作戦が発表された。
まず集団はカイオーガ討伐とグラードン討伐の集まりへと分類される。
対カイオーガ戦は基本的に海上での戦闘になるために水中移動能力や飛行能力を持ったポケモンが中心となり、
そしてそれ以外の人間が対グラードン戦へと回された。

カイオーガ討伐には、現チャンピオンのミクリ、四天王からプリムとフヨウ、ジムリーダーからはテッセン、ナギ、フウとラン、そしてアダン。
指揮を執るのはなんとスイバだ。
スイバ本人はアルバを推したが、アルバには捕獲という重大な使命があるのでダイゴとコウはスイバに決めた。
チャンピオンのミクリやその他四天王は人格的にリーダーとしては失格だとも言っていたが、本人には伏せられている。
一方、グラードンへは残りのジムリーダーと四天王、そしてダイゴ、ガイ、ブラックが向かう。
こちらの指揮はダイゴが執る。
一般のトレーナーの方はなるべく人数が均等になるように配分された。
「僕なんかで大丈夫かな……」
スイバが心配そうに呟く。
オルドビスでの隊長としての資質はブラック達より上と言われているが、本人は自信がない。
いつもの10倍以上の人数が自分の指示で動くのだ。今までと勝手が違う。

「あなたがスイバ君ですね?」
端正な顔立ちの小綺麗な男が話しかけてくる。
「そうだけど、君は?」
人にものを尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀である。
「これはこれは。あなたは私をご存知でないと?」
スイバは小さく頷く。
「そうですか。申し送れました、私は今このホウエンで最も美しいトレーナー、ミクリですよ。」
ミクリという事はこの男が現在のホウエンのチャンピオンだ。
それにしても自分の事を「美しい」と言い切るとは、相当なナルシストである。
「は、はあ。」
流石のスイバも返事に困る。

「そんなに心配そうな顔をしないで下さい。
確かにカイオーガは強大ですが私達の勝てない相手ではありません。
特に私のポケモンは美しく美しく美し……(中略)美しく、そして強いので安心して指揮できますよ。」
ミクリはそれだけ言うと立ち去ってしまった。どうやら挨拶を済ませに来ただけのようだ。
その後もやたら陽気なフヨウや、世間知らずっぽいプリムなど
よく言えば個性的、悪く言えば自己中のような連中ばかりがスイバに話しかけてきた。
「本当に大丈夫かなぁ……」
今ならダイゴが自分をリーダーに指名した理由が分かる。
このメンバーをまとめるのは至難の技だ。そして同時にスイバは軽い目眩を覚えた。

デボンとメガハード社が財力に物をいわせてミナモ港の船を全て借り上げてしまっていたので、
数百人のトレーナーは全員が船に乗る事ができる。
また、港では昨日アクア団を追っていたジュンとアベルも合流した。
「これだけ大規模な作戦だ、久々に思いっきり暴れるぜ!!」
ジュンは状況を見るだけで血が騒いでいるようだ。
「ジュン殿、我々の行動にはホウエンの未来がかかっているのだ。
もう少し危機感を持つべきであろう。」
その点、アベルの落ち着きは大したものだ。
「悪いな二人共。昨日の戦いの疲れもまだ抜けていないだろ?」
「心配はいらぬ。それにブラック殿も昨日戦っていたのは同じなのだし、それはお互い様でござるよ。」
「こっちにしてみれば昨日の鬱憤を晴らすチャンスなんだ。
おれなんかじっとしていた方がストレス溜まっちまう。」

こういう時のこの二人は頼りになる。
特にホウエン生まれの人間はびびっている人間が多いなか、
カントー出身のジュンは伝説をあまり知らないのでグラードン、カイオーガをあまり恐れない。
チーム分けは、ジュンがカイオーガ、アベルがグラードンの方に行く。
「水中で戦えるポケモンもいないのに大丈夫でござるか?」
確かに、ジュンは海中で戦えるポケモンをあまり持っていない。
「作戦は聞いた。あれなら後半に必要になるのはむしろ陸戦型のポケモンなんじゃないか?」
それも一理ある。しかしジュンの目的は明らかにそれ以外の部分にある事をブラックは見抜いていた。

「お前がそういうやる気を出している時は大抵女絡みだよな。」
「お、話が分かるなブラック。」
それだけ鼻の下を伸ばしていれば誰でも気付く。
水ポケモンは水中での抵抗を減らすために流線型のものが多く、その容姿は女性に人気が高い。
そのため、必然的にカイオーガ討伐隊の方が女性の比率が多くなっているようだ。
「別に作戦前にお前がナンパしていようとこっちは知った事じゃないが、船を難破させるのだけはよしてくれよ。」
「ははは、冗談きついぜ。だがおれは戦闘じゃあ絶対に撃沈しねぇよ。」
そう言ってジュンはブラックとは別の船に乗っていった。
ブラックは気のせいか、ジュンの背中に何か妙な違和感を感じた。

「ブラック殿はグラードンを止められるとお思いか?」
「それはわからない。ただ一つ確かな事は止めないとこのホウエンはおしまいだって事だ。
だから俺達は何があっても奴の封印をしなければならない。」
「そうですな。拙者とした事が、少し弱気になっていたようだ。」
その時丁度、船の出航の汽笛が響いた。

船の中でブラックはツツジから今回の件の裏側を聞いた。
「ひと月前に、ジムにガイさんがいらして、私達に結束を呼びかけたのです。」
ガイ、アルバ、ダイゴの3人は万が一の場合を想定して各ジムリーダーに根回しをしていた。
結局、その想定された事態になってしまったわけだ。
「待てよ、ひと月前は確か……」
ブラック達はオルドビスを支援してくれる企業を相手に対策会議をやっていた。
そしてブラックはその帰りにガイを見かけた。
あれはカナズミのジムに協力を要請しに行った帰りだったに違いない。
「その他の仕事も色々やりました。
各自治政府への根回しは個人や企業よりもジムからした方が圧倒的に影響がありますから。
でもおかげで私達はこのひと月の間大忙しでしたのよ。」

どんな手段で集めたのかは知らないが、ここにいるのはホウエンでも名のある有望株ばかりだ。
オルドビスの人員のような対集団、対大型ポケモンの訓練は受けてはいないと思われるので、
実戦でどこまでやれるかは未知数だが、いないよりは断然良い。
だがガイとアルバは何故ここまでの手配をするのだろうか。
彼らに外部の地方にそこまで義理立てする必要はない。

「そろそろ教えてくれないか、ガイ。
お前はなんでお前はホウエンに尽くしてくれるんだ?」
「ボクも断片的にしか聞いていない。興味深いな。」
ブラックの質問にダイゴも便乗する。
「良いだろう、あんたらには知る権利がある。」
ガイは静かに口を開いた。

ガイの口から語られたのは5年前のヤマブキ占領事件の裏側だった。
一般に報道されていたものとは大幅に食い違う。
いや、これが真実なら報道などできるはずがない。
「それからだ、オレが奴らを追うようになったのは。」
ガイはこの1時間の間、殆ど息継ぎすらせずに語り続けた。
「なるほど、それが君の戦う理由か。」
「ああ。この戦いは復讐に近い。」
周囲の人間はガイの因縁と共に強さを理解した。
その後は誰も黙して語らず、目的地まで会話はなかった。


ブォーッ!!
船の汽笛が鳴る。ルネへの到着の合図だ。
「な、なんだあれは……」
トレーナー達が驚く。その視線の先には光の柱がそびえ立っていた。
「恐らくグラードンが光を集約して自らのエネルギーに変換しているのだろう。
奴が完全な状態になってしまう前に封印をし直したい。」
コウの足止めももうとっくに時間が切れている。
だがダイゴの言うようにまだ力を蓄えている真っ最中の今なら勝機は十分ある。

「係員の指示に従って速やかに避難して下さい。繰り返します、係員の……」
ルネビルに残っていたオルドビス局員が拡声器を手に避難の手伝いをしている。
「なんと、まだ避難が完了しておらぬではないか。」
もうすぐこの島は戦場になる。
場合によっては草木一本も残らないような状態になる事もあり得る過酷な場所だ。
そんな中に市民を残しておけるはずがない。
事前にルネ政府にも通達して今回の避難を手配してもらっていた。
「心配するな、アベル君。彼らは今ボク達が乗ってきた船で脱出する最終組だ。」
「左様でござるか。だがそうだとすると、我々の帰る船が無くなってしまうのでは?」
「急な避難で船が足らなかったのはボクのミスだ。
それに巻き込んで悪いがボク達は後2、3時間はこの島に閉じ込められる事になる。」
その事はミナモ会場で他の人間には説明されていたが、後から合流したアベル達は聞いていなかった。

「ダイゴ殿、その位は覚悟の上で我らは来ているのだ。
周りは全て海、正に背水の陣とは結構ではないか。」
逃げる事を始めから考えていたらグラードンと対峙できるはずがない。
「そう言ってくれると助かるよ。
そうだ、ついでに一つ頼まれてくれないか?
これから集団を二つに分けるのだが、君にもう一つの隊のリーダーをやってもらいたい。」
ここで二つに分ける意味は後に起こるであろう事態を想定しての事だ。
「拙者でよろしいのか?」
この分隊は後方支援という側面以上の重要な隊だ。
それを任せられるだけの技量を持っている自信がない。

「確かに当初はこの隊のリーダーにブラック君を考えていた。
だけど彼は逆境に弱いという弱点を抱えているのをボクは知っている。」
以前ポケモンリーグでの対戦から分析した結果だ。
ブラックは相手のペースに巻き込ませると判断力が鈍るという悪い面がある。
ブラックは誰かの指示の下に置いた方が力を発揮できるはずだ。
「分かった、引き受けると致そう。」
アベルはリーダーになる事を了承した。これで全ての準備は整った。

トレーナー一同はグラードンのいる目覚めの祠の入り口に整列した。
「これよりグラードン封印の作戦を開始する!!」
ダイゴの号令でトレーナー達がグラードンのいる祠へとなだれ込む。
先陣を切るのはブラック達オルドビス第2部隊の面々だ。
祠の中はかなり広い空間となっている。この最深部にグラードンはいるはずだ。
野生のポケモン達は危機を感じてか物陰に隠れている。

最後の坂を駆け下りると、急に直視しづらい程の光量が目に入ってくる。
先ほど島の外から見えた収束した光だ。
その光の中でも、向こうに何かがいるのがブラックにははっきりと感じられた。
次第に目が慣れてくると遠くてもその輪郭が見えてくる。
灼熱の紅に身を染め、近づくのも難しいような熱波を放ち、
あらゆる物を引き裂く爪とあらゆる物を砕く牙をちらつかせ、その黒い瞳の奥にマグマを宿す獰猛な獣。
「こ、こいつが……」
ブラックは言葉が後に続かない。
そのものから受けるプレッシャーは想像の斜め上をいっていた。
だからといって恐れたわけではない。以前貰った鎧を着用し、グラードンに向かう。

「出ろっ、ハガネール!!」
見た目の大きさはハガネールの方が上だ。
2階建の家に相当するようなポケモン2体が睨み合う。
続いて他の者も次々にボールを投げる。
「グラードン……確かに強大な力を感じるな。」
ガイもハクリューを出す。
「とにかくまずは足止めだ。住民の避難が完了するまではここから出すな。」
指示を出すダイゴはアーマルドを繰り出した。
狭いこの空間では全員のポケモンが出せるわけではない。
しかし一般市民に被害を出すわけにはいかないので、ブラック達の乗ってきた船が出航するまではグラードンを祠からは出せない。

「ハガネール、巻き付け!!」
グラードンは迫り来るハガネールに見向きもしない。
相手よりも長い体を使い、ハガネールはグラードンを締め上げる。
「よし、今だ!!」
ダイゴの合図で他のポケモンが一斉に攻撃する。
ハガネールに締め上げられてグラードンは動けないはずだ。
炎が、水が、葉が、光線が次々にグラードンへと吸い込まれていく。
「ゴローニャ、のしかかるのよ!!」
「ボーマンダ、ドラゴンクロー!!」
四天王やジムリーダーも積極的に攻撃を仕掛ける。
様々な攻撃が混ざり合い、大きな爆発となった。

「やったか!?」
カゲツが言った。
「この程度で退治できたら苦労しないで済むんだがな。」
煙が晴れると、ガイの言う通りに無傷でグラードンが顔を出した。
「な、なんと強固な身体なんだ。ボクらの攻撃がまるで効いてない。」
今ので倒すまではいかなくとも、多少のダメージは与えられていたとダイゴは思っていた。

グオォォォン!!
グラードンが雄叫びをあげる。どうやらトレーナー達を敵と認識したようだ。
グラードンはハガネールを掴むとそのまま平然とひっぺがす。
片手でやってのけてしまったところを見ると、ハガネールの巻き付くは全く意味をなしていなかったようだ。
続いて、グラードンの全身が赤く灼熱する。
それと共に祠内の気温が一気に上昇した。その場にいるだけでおかしくなってしまいそうな暑さだ。
「来るぞ!!」
ガイが他のトレーナーに注意を呼びかける。
「ハガネール、こっちへ来い!!」
嫌な予感がしてブラックはハガネールを呼び戻した。
ズガガガッガガガッ
グラードンから大量の岩塊と炎が噴き出す。
逃げ道の無い祠内では人もポケモンも壁も関係なく火砕流が襲う。
そして穿たれ、祠の崩落が始まる。
回避は不可能だった。



「嵐が一層強くなっているぜ。こんなボロ船で持つのか?」
船に慣れない者の中には船酔いにかかった人間もいる。
「もう怖気づいたのかい、ジュン?カイオーガに近づけばこの嵐は更に強まるだろうね。」
「確かに若干不安だが、一番の不満はそこじゃない。
何でおれはこんなムサイ野郎共と現場までいかなくちゃいけないんだ!!
向こうの大船なら美女いっぱいでウハウハなのに!!」
漁師に乗せてもらっているこの船は基本的にオルドビスのメンバーが中心だ。
「そう言われても、僕らは固まって動いていた方が何かと都合がいいんだから仕方ないだろ。
もう少しで現場に着くんだから我慢しなよ。」
「ったく、リーダーに任命されたからって図に乗るなよ。
まあこの行き場のない怒りはカイオーガとやらにぶつけてやるか。」
ジュンが拳を握りしめる。

「おーい、あんちゃん達、言われた海域に着いたぞー。」
この船を運転してもらっている漁師の声が聞こえた。
漁師達には魚群探知機が振り切る位に強く反応する地点を目指せとしか言っていない。
カイオーガと戦うなどと教えていたら引き受けてもらえない可能性があったからだ。
「間違いない。この下にカイオーガはいる。」
量子反応の密度から見て他のポケモンである可能性は低い。
現在のカイオーガの潜行深度は30m程。海の状態が良ければ目視でも確認できただろう。
「ならとっとと始めようぜ。」
「言われなくてもわかってるよ。」
スイバは船の無線機を手にとる。
「現時刻をもってカイオーガ封印作戦を開始する。各員かかれ!!」

作戦開始と同時にプリムやミクリといった水中ポケモンを使うトレーナー十数人が潜水服を着てポケモンと共に海へと潜っていく。
海上でもまた、残りの水ポケモンがそれぞれ持ち場につく。
水中班はなるべくカイオーガを刺激しないように潜り、カイオーガの真下に位置をとる。
「配置、完了しましたよ。」
水中のミクリからスイバに連絡がきた。
「冷凍ビーム、照射開始!!」
ミクリが先頭に立ち、展開したポケモンが一斉にカイオーガの真下の空間を凍結させる。
そして直径25m程の巨大な氷塊が出来上がる。
氷塊は浮力を得て水面へと上昇を始め、途中でカイオーガを巻き込む。
カイオーガの力では氷塊を押し返す事はできないように計算して作ってあるのだ。

ギャオォォォォン!!
カイオーガが海上に打ち上げられる。
「続いて第2射、用意!!」
水中班の回収を確認すると、今度はスイバのラプラスを始めとしたポケモン達が冷凍ビームを放つ。
水面は覆われ、氷の大地が完成した。
「一番乗りは戴きだ!!殺れ、ノクタス!!」
ジュンが真っ先に氷の上に飛び乗る。
他のトレーナーがカイオーガの姿に呆気にとられる中、ジュンは立ち向かう。
そしてもう一人、カイオーガを恐れぬ者がいた。
「ふ、神と呼ばれているからにはどれほどのものかと思ったが、所詮はポケモンか。
貴様などマスターの称号を持つオレの前には雑魚でしかない。」
アルバのルナトーンもカイオーガに積極的に攻撃を仕掛ける。
カイオーガもただ黙ってやられている訳がなく、冷凍ビームで反撃をする。
ルナトーンはその攻撃を光の壁で防御するが、さすがに防ぎきる事はできず、押し飛ばされてしまった。
「なる程、確かに普通のポケモンよりは強いな。先程の言葉は撤回してやろう。」
ルナトーンに大したダメージは無かったが、リュウとの戦いを目撃していたスイバはアルバが防ぎきれなかったという意味を瞬時に理解した。

「僕達もやろう。ラプラス、怪しい光だ!!」
すぐに支援へと移行する。更にスイバは他のトレーナー全員に指令を出し、総攻撃を開始する。
「このような美しいポケモンを傷つけるのは私の趣味ではないのだがね。」
そう言いながらもミクリのミロカロスは華麗に氷の上を滑り、カイオーガに狙いを定めさせないように軌道をとる。
そしてカイオーガの死角にまわってはその都度水の波動を放つ。
「てめえらばかりに良い格好はさせねぇよ!!」
ジュンはノクタスにカイオーガの正面から向かわせる。
ノクタスはドスドスと激しい音を立て、勇ましく駆ける。
足のスパイクが氷に食い込み、足場を気にせず戦えるという点で、ノクタスは陸上生息ポケモンとしてはこの地形に最も適しているといえる。
そのノクタスはカイオーガギリギリの所で跳躍し、その上に取り付いた。

「決めろ、ニィィドルアァァァムッ!!!」
馬乗りの体勢から腕のスパイクをえぐり込ますようにして拳をカイオーガの背にねじ込む。
大きさに差がある為に大したダメージにはなっていないようだ。
しかしこの位置ではカイオーガは反撃できないのでノクタスは好き勝手にやれる。
ノクタスは左右の腕を交互に打ち込む。
分厚い皮膚を突き破り、遂にカイオーガの背からは血しぶきが噴き出した。
ノクタスの緑色の腕は真っ赤な液体を滴らせながらもなおも攻撃を止めることは無い。
グォォォオオオオ!!!!!
悲鳴ともとれる叫び声をあげるカイオーガ。その怒りに呼応するかのように嵐も強くなる。

苦しみ、のた打ちまわるカイオーガ。
その余りに激しい動きにノクタスは振り落とされてしまった。
怒り狂ったカイオーガはノクタスに対して狙いを定める。
ノクタスは振り落とされた時の衝撃でまだ動けない。
「ミロカロス、水の波動だ!!」
ミクリやフヨウといったトレーナー達が攻撃をするがまるで見向きもしない。
カイオーガはそのままノクタスにのしかかる。数百kgの体重がノクタスを押し潰す。
「うおぉぉぉぉォっ!!」
ジュンが雄叫びをあげる。その瞬間、何かが弾けた音がした。
「マズい、あいつ、キレたみたいだな。」
スイバは一目見て分かった。これはジュンの能力、アングラーが発動した証拠だ。

「ミィサイル針ィイ!!」
ノクタスはのしかかられた状態のまま全身の針を飛ばす。
この体勢では自らもその針によるダメージを受けてしまうが、ジュンはそんな事には一切頭が回らなくなっている。
「やめるんだジュン。そんな戦い方じゃ勝てない!!」
スイバの制止もジュンの耳には入っていない。
カイオーガが仰け反った瞬間にノクタスは脱出し、直ぐに突っ込む。
「うぉぉぉ!!!ニィィイドルアァァァムッッ!!!」
能力によって強化された必殺の拳がカイオーガの左目をえぐる。
グガァァァアアア!!!
ダメージでカイオーガも更に怒りを強める。もはや互いしか見えていないようだ。

今度はカイオーガが反撃する。
その渾身の一撃は体内に残っている全ての水を束ねたかのような特大のハイドロポンプ。
口からの放水の行き先は当然、ノクタスだ。
その攻撃は避けようとすれば避けられる攻撃だった。
しかし冷静な判断力を失っている今のジュンは回避という観念そのものが欠落した状態にあった。
尚も攻撃の姿勢を崩さないノクタス。直撃は必至。
そしてノクタスは受けるべくしてハイドロポンプに吹き飛ばされる。
その一直線上にジュンはいた。

「うぁぁああー!!!!!!」
ノクタスに巻き込まれたジュンは氷の大地の端まで一気に弾かれる。
「ジュンー!!!」
スイバが叫んだ時にはもう遅かった。
海に投げ出されたジュンはカイオーガの嵐により作られた巨大な渦に飲み込まれ、沈んでいく最中だった。
スイバはすぐさまラプラスでダイビングをしようとするが、アルバがそれを止めた。
「無理だ、もう助からない。今海中に飛び込むのは自殺行為に等しいぞ。」
あくまで冷静に、事実だけを述べる。
「でもジュンが、ジュンがっ!!」
ジュンは完全に水中に沈み、もう姿は見えなくなっていた。
「落ち着け、リーダーである貴様までいなくなったらカイオーガを倒す事はできなくなる。」
この状況で最優先すべきはカイオーガの封印。その為には多少の犠牲も覚悟のはずだった。
「ちくしょおぉぉー!!!」



「生きてるか?」
「どうにかな。この鎧がなかったら今頃どうなっていたかは分からないが。」
ガイの呼びかけに答えてブラックが瓦礫から這い出す。
グァァァァオォォォン!!!
グラードンは未だ健在である。むしろ狭い穴蔵から出られて生き生きとしているくらいだ。
「あんたの部隊の奴らは大したものだな、隊員の殆どがあの一瞬で退避していた。」
オルドビスの人員は専門的な訓練を日常的に受けている。
それはこうした緊急時に備えるためでもあった。
「まさかグラードンがあれほどまでの力を秘めていたとは……
それにしても、ジムリーダーのみんなが見当たらないが…?」
ダイゴはアーマルドが守り、無事だった。
「無事かどうかは俺が確認できるよ。」
と、ブラックが指をパチンと鳴らす。すると土砂の一部が崩れてハガネールが顔を出す。
ハガネールはジムリーダーや四天王達を囲んで守っていた。
もっとも、ハガネール自身はもう戦闘ができない程傷ついていた。皆ぞろぞろと出てくる。
「痛っ!!」
四天王のカゲツが立ち上がろうとした時だった。彼は自分の足に激痛が走るのを感じた。
「完全に折れているみたいね。」
その場でツツジが結論を出す。
「ここまでか……後は頼むぜ。」
他のトレーナーに介抱されながらカゲツは戦線を離脱した。

「耐えきったのはガイのハクリューだけか。本当に強いな。」
ハクリューは攻撃を事前に察知し、その細い体を岩の隙間に潜り込ませていた。
他の味方ポケモンは全滅。
炎に耐性があるはずのツツジのゴローニャまで倒されている事からもその威力の凄まじさが伝わってくる。
「だがオレの特殊繊維製マントはボロボロになってしまったが…」
ガイのマントは一定の防御力を有していた。それがあの惨事の中でガイを助けたのだ。
しかし気に入っていたのか、ガイは少し残念そうな顔をしていた。
「まああの攻撃を受けて死者0負傷者1なら凄いものだ。
それにこの開放空間なら先程のような逃げ道の無い状況にはならないだろう。
もう住民の避難は完了しているようだし、周りは気にせずいこう。」

ダイゴ曰く、あの攻撃は祠内だったから避けられなかったのだそうだ。
グラードンが暴れまわって街を蹂躙しているが、破壊された建物の被害はホウエン企業連合が負担する事になっている。
と、いうことは、ダイゴとしては本当は被害が少ない方が懐が痛まないはずなのだが、ここは士気の問題だ。
「ハクリュー、行け!!!」
グラードンへの攻撃を再開する。
人数は狭い祠内の2倍以上になっている。これだけの人数の攻撃なら少しは効果もあがるだろう。
ブラックやダイゴも手持ちから新たなポケモンを出す。

グラードンに対する総攻撃は一層激しくなる。
グラードンもよろけた素振りをしたりするが、それ程のダメージにはなっていない。
グオォォン!!
グラードンが吠えながらビームを放つ。
自ら集約した太陽光をエネルギーに変換したソーラービームだ。
人数が多くなった分密集した所を狙われた。
一遍に数十のポケモンが焼き尽くされ、戦闘不能に陥れられる。
その構図は戦車に対して歩兵で挑んでいるかのような一方的さだ。
トレーナーの中には恐怖を覚えて後退する者も出てきている。
並の技ではびくともしない装甲と一瞬で敵を葬り去る火力はやはり驚異的。
そして何よりも照りつける強烈な日差しがポケモンとトレーナー両方の体力を削っている。
気温は45度。サウナの中にいるも同然なのだ。
そんな中、追い討ちをかけるように事態が急変する。

「ルネシティに接近する船舶多数。識別信号を出していないわ。これは……マグマ団のよ!!」
通信機からオペレーターのヘキルの声が聞こえる。
「マズいな、どうする、ダイゴ?」
「慌てないでも大丈夫だよ、ブラック君。これも想定内の出来事だ。」
ダイゴのいう通り、すぐに別働隊が入り口を固める。指揮を執っているのはアベルだ。
ダイゴが隊を二つに分けていたのはマグマ団の介入を予想していたからだ。
「皆の者、準備はよろしいか!?」
「おぉ!!」
アベル達はまず島に固定されている魚雷発射装置を使い船の迎撃を開始する。
その姿を見て、ブラックも安心したか、そのままグラードンへの攻撃に集中する。


迫り来る魚雷に対してマグマ団は冷静に対処する。
落ち着いて水中戦闘用のポケモンを出すと、水の波動を使って船に魚雷が到達する前に全て誘爆させた。
マグマ団が水タイプのポケモンを持っているという事実はアベル達を驚かせた。
本来、炎タイプや地面タイプを好むマグマ団が、その対極にある水タイプを使ったという事例は今まで報告されていなかったからだ。
水タイプは全てカイオーガ討伐隊に流れてしまったため、水中では戦闘ができない。
そして、海上に敷設されていた機雷もゴルバット等の飛行ポケモンで発見、誘爆されて全く意味をなさなくなる。
テッポウオの長距離射撃に魚雷の発射管そのものも潰され、アベル達は長距離での迎撃手段を失った。
編隊を成した操艦といい、彼らの動きはよく訓練されたものだ。
水上戦闘のプロであるアクア団に比べればまだまだ稚拙な動きだが、とても素人信者が一朝一夕でできるものではない。
恐らく今まで前線には出ずに指揮を執っていた精鋭達を投入したのだろう。
つまりはこの作戦が彼らの最終作戦である事を示している。
船を接岸されないようにアベル達もポケモンを出して対処する。
やはり敵の主力は陸戦型のものだが、一匹乗りの小型ボートに乗せる事で海上戦にも対応してきた。
アベル達の戦力に海上で戦う事のできるポケモンは少なかったが、船になら狙撃する事はできる。
海上の戦闘は必然的に船へ攻撃するアベル達とそれを防ぐマグマ団という構図になった。

数少ない飛行ポケモンであるアベルのストライクは次々とポケモンの乗ったボートを沈めていく。
「ここを通す訳にはいかぬのだ!!」
アベルはボートだけをピンポイントで狙う事でポケモンを無力化している。
陸戦型なら泳ぐ事はできないものが多い。
と、マグマ団もストライクを倒しにかかってくる。
迫り来るのは数匹のゴルバット。完全に取り囲まれた。
「師範代!!」
サイゾーのゴーリキーが岸から思いっきり跳躍し、空手チョップで攻撃しようと試みる。
しかしゴルバットにはあっさりとよけられてしまった。
それでも、ダメージは大してなくとも、一瞬でも敵の気をそらせれば後はアベルがどうにかする。
アベルは隙を見せた敵に負ける事は無い。一気に3匹ほど燕返しで撃墜した。

だが敵も一筋縄ではいかない。
残りのゴルバットはストライクを挟み撃ちにしてみたり、催眠術や超音波などの妨害効果をもつ技を放ってきたりする。
これらの補助技に対しては対抗策がないのが現状だ。
とりあえず命中率が低いのが救いなので回避に徹すれば当たらずには済む。
しかし攻撃に転じる事がなかなかできない。
「あたしがやるわ!!」
ミナのフシギソウがストライクを中心にした空間に向けて葉っぱカッターを放った。
刃状の葉が次々とゴルバットに突き刺さる。
いつもミナに稽古をつけているアベルにとってはこの程度の攻撃を避けるのは朝飯前だ。
これでほぼマグマ団の航空戦力は片付いた。

アベル達が空中の敵にてこずっている間に随分と船を近づけさせてしまった。
これ以上、船の護衛は無理と判断したのか、マグマ団は船を放棄し、海へとどんどん飛び込んでいく。
もう10分も泳げば岸に到達できる距離なのだ。
アベル達に水中戦闘能力がない以上、これは最も効果的な戦略だ。
息継ぎをする時にポケモンで狙い撃ちをするという選択肢もないことはないが、そのような非人道的な手段をとれるような人間はいなかった。
「ひゃっほぉー!!」
上陸するマグマ団。数の面では明らかに相手の方が多い。
「囲まれないようにするのだ。味方と連携して死角をカバーしろ。」
この状況で最も気をつけるべき事は集中攻撃や不意討ちで一気に戦力を削られる事。
孤立すればそこを叩かれるので、なるべく固まって戦った方が良い。
アベルの指示のもと、グループごとに戦力が固まる。
マグマ団の主力はドンメルなどの炎ポケモン。
ホウエンでは炎ポケモンの入手経路が限られているので、大抵は入手が容易なドンメル系を使っている。
接近、射撃、広範囲攻撃の技をどれも覚えるため、決して油断できる相手ではない。

「なんて数なの、持ちこたえるなんて無理っ。」
ミナが弱音を吐く。
「それでもダイゴ殿達が封印を完了するまでここを通すな!!」
マグマ団もこれが全軍のはずだ。これを押さえ込めば戦いは終わる。


予想外の抵抗にマグマ団上層部、主に小隊長クラスが痺れを切らしていた。
前の戦いでホムラとカガリという二人の幹部を失っている現在、指揮系統にも若干の混乱が見られる。
そんな中、ただ一人、事態を冷静に見極めようとする者がいた。
マグマ団の首領、マツブサである。
「やはり突破は難しいか……」
この事態はある程度予想はできていた。
最も優秀な部下であり、団創設時以来の友人であったカガリとホムラの二人が倒された時点で覚悟はできていたのだ。
リュウにより敵の規模もある程度は報告されていたが、その報告よりも今ここにいる敵は多い。
何より、リュウ本人も既に倒されてしまった。
リュウは自分の力量でできない事が何かを知っている。
だから一人で闇雲に先行するような事はしないはずだ。きっと伏兵がいたに違いない。
抵抗は最初から計算の内だが、突破できなければ目的は達成できない。

「第7中隊、残存ポケモン2、ほぼ壊滅です!!」
「第14小隊、撃破されました!!」
苦戦の報告が各方面から次々と入ってくる。
「私が出る以外に選択の余地は無いな。」
団長自ら戦闘の矢面へと赴く。
混乱した戦線を立て直すと共に士気を高める狙いもある。途端に団員の瞳に輝きが戻る。
「ん、動きが変わった?」アベルは敵の変化に敏感に気付いた。
急に勢いが付き、味方が押され始めたのだ。
「5〜9中隊は右側から攻撃。第15小隊は隙を見て街中へ侵入しろ。
残りは正面からひたすら突き進め!!」
マツブサの指揮は見事なものだった。
アベル達の防御策のどこが薄いかを瞬時に的確に判断して集中突破を試みてくる。
アベルもそれに対応して陣形を変化させて懸命に守り抜く。


読み合いによる集団戦闘が続く。
こうなるとどうしても数が少ないアベル側の不利が否めない。
「師範代、見つけましたよ。」
サイゾーが敵の司令官らしき人物を補足し、ゴーリキーを向かわせる。
司令官を直接倒してしまえばマグマ団は壊滅すると考えたのだ。
その司令官とは勿論マツブサだ。
「無茶するではない!!」
アベルの制止を聞く間もなくサイゾーは攻撃に移っていた。
「ゴーリキー、クロスチョップ!!」
常識的に考えて、首領ともあろう者が護衛もつけずにのこのこ出てくるはずはない。
そういう点の読みの甘さも含めて、サイゾーはまだ半人前だった。
そしてゴーリキーの攻撃は突如現れた玄(くろ)い盾のような物によって防がれてしまった。

「筋が通っている……素人の攻撃ではないな。だが脇が甘い。火炎放射でとどめをさせ。」
そして、ゴーリキーの攻撃を防いだ物体から手足が伸び、ゴーリキーを押さえつける。
盾のように思えた物は亀型のポケモン、コータスだったのだ。
亀にありながら炎の力を使う、堅牢なポケモン、それがコータスだ。
しかし気のせいか、このコータスの周りには、アベルが今まで感じた事のないような凶々しい「気」を感じる。
硬い甲羅から出てきた小さな口から業火を吐き出す。
その一撃でゴーリキーは沈んだ。パワーもなかなかのものである。
「くっ!!」
サイゾーが次のポケモンをだそうと腰に手をかける。
「待て、拙者が行く。」
アベルはサイゾーを後ろに下げ、マツブサと対峙した。

はっきり言って、サイゾーにこの男の相手は務まらない。雰囲気が周りの人間とは明らかに違う。
何よりアベルが気になっているのはコータスから感じる尋常ではない圧迫感。
ポケモン本体のものか、トレーナーのものが伝播しているのかは分からないが、悪意に満ちたオーラがコータスの全身から漏れ出ている。
形容するならそれは闇のようだった。
「マグマ団総帥、マツブサ殿とお見受け致す。」
「如何にも、私がマツブサだ。そういう貴様は何者だ?
今までの戦いを見るに貴様が指揮官のようだが。」
「拙者の名はカンザキ・アベル。奇妖剣流道場の師範代であり、オルドビス第4部隊の隊長である。
貴殿に決闘を申し込む!!」
マツブサはリュウの報告書を思い出した。
アベルというのはオルドビスでトップクラスの実力の持ち主だと書いてあったはずだ。

「面白い、受けて立ってやろう。
ただ、一つ聞きたい事がある。リュウやカガリ、ホムラを倒したのはお前か?」
「拙者ではない。拙者はその3人の名は知っているが面識は無い。
しかし、これだけは言える。その3人を倒したのは拙者の仲間だ。」
マツブサは瞬時に残りのメンバーを思い出す。
しかしそれ程目立つ経歴の者はいなかったはずなのだ。
やはりリュウを倒せそうな奴は思い浮かばない。
「まあ良い。誰だろうと倒してしまえば関係ないな。コータス、行くぞ!!」

一方でアベルは消耗したストライクに代わり先程からカモネギを使っていた。
「斬り裂け!!」
カモネギは一気に近距離まで詰め寄り自分に有利な間合いに持ち込む。
間髪入れずに振り下ろされた刃はまっすぐにコータスを捉えた。
コータスは手足を甲羅の中に引っ込めて防御体勢をとる。
刃は甲羅に当たり、弾けた。
アベルの剣は敵に垂直に当てる事ができれば理論上は全ての物を両断できるはずだ。
しかし亀甲の曲面が刃を滑らせ、防いでしまったのだ。
「コータス、火炎放射!!」
お返しとばかりに強烈な炎を吐き出してくる。
カモネギは素早く空中へ飛び出し、回避する。
爪先を僅かばかり炎が掠ったが大したダメージにはならない。

「炎の渦!!」
攻撃法を変化させ、カモネギの逃げ道を塞ぐ。
この距離ではカモネギの斬撃が届かないだろうと予測しての事だ。
取り巻く炎を避ける方法をアベルは詮索する。
「奥義、燕返しッ!!」
剣が炎を斬る。
アベルの使うポケモンは大抵の流体なら簡単に斬ってしまう。
逃げ道が無いなら自ら作ってしまえばいい。簡単な事だ。
だがアベルが見失っていた間にコータスは先程いた所から消えていた。
「右だ。」
コータスのスピードはお世辞にも速いとは言い難い。
あの一瞬では大した距離を移動できるわけがないのだ。
だがマツブサは反応が遅れたのを突いて攻撃を仕掛ける。
「コータス、熱風!!」
内燃機関で生み出された熱を一気に廃熱する。
今度の攻撃は範囲的が広くて切り裂く事のできるものでは無かった。
避ける方法はただ一つ、後ろに飛び退くだけだ。

マツブサの狙いは恐らくそこにある。
カモネギの間合いの外からじわじわといたぶる気なのだ。
だが、奇妖剣流には苦手な間合いなどという物は存在しない。
「この拙者にも遠距離での攻撃手段は存在する。受けてみよ、エアカッタァァッ!!」
カモネギの剣が空を斬る。その剣圧より生じた空気の密度差が直進し、コータスを襲う。
この攻撃は空気そのもので攻撃しているので目視で知覚する事ができないのだ。
そのため、マツブサも到達時間が予測できずに防御が遅れた。
威力そのものは燕返しを下回るが、うまい具合に甲羅からでていた首に当たったのでダメージは思いの外大きかった。
「っ、コータス!!」
マツブサはアベルへの評価を改めた。
この男に対して体力を温存していてはダメージがより蓄積してしまう。
できれば神との接触前に力を使いすぎる事はしたくなかったが仕方がない。

「でやぁぁぁ!!」
この期に乗じてカモネギが急速に接近する。
近距離での一撃で一気に勝負を決めるつもりのようだ。
もはや猶予はない。マツブサは隠していた奥の手を使う他はなかった。
「コータス、ダークファイア!!」
コータスの内にあった闇が外部へと拡張する。
その闇はコータスの頭部へと集中し、炎と共に放たれる。
コータスから吐き出された炎は暗い影と混ざりながら波打つようにカモネギへと迫っていく。
カモネギはとっさに剣で防御をしようと試みたが、剣は炎に触れた部分から消失していってしまった。
そのままカモネギを炎は襲う。
巨大な想念が込められた凶々しい力はカモネギを包み込み、アベルにまで達した。

「ぬ、これは一体……」
その時、アベルは感じた。
今までに遭遇した事のないような凄まじい憎悪、怒り、悲しみといった負の感情を。
不思議と熱さは感じなかった。
ただ、その闇の持つ情報圧がアベルのそれ以上の思考を止めてしまい、何も考える事はできなかった。



ジュンの死は討伐隊のメンバーに大きな衝撃を与えていた。
勿論、それはスイバやミクリも例外では無かった。
自分達が身を置いている状況に死という一文字がつきまとっている事を改めて認識させたのだ。
「っあぁぁぁぁ!!」
スイバのラプラスが冷凍ビームを放ちながら次第にカイオーガに近づいていた。
恐らく自分でも気づいていない。
よりダメージが大きくなるように立ち回っているうちにそうなっていたのだろう。
味方は完全に浮き足立っている。指揮官があれではどうしようも無い。
「このままだと負けるな。」
場の状況を見てアルバは判断する。今冷静さを失う事は即ち死を意味するからだ。
ここは全員、頭を冷やす必要がある。

パチンッ!!
アルバが指を鳴らす。その音を合図にルナトーンが動いた。
ルナトーンはカイオーガの死角を縫い、味方にも気づかれずに中間地点のポジションをとる。
少し高めに飛翔して絶好の位置を得た。
「散れ!!」
轟音を伴いルナトーンが突如爆散した。
カイオーガは勿論、一部の味方までをも巻き込んだ巨大な爆発だ。
カイオーガしか眼中に無かった者はかなり無防備にこの攻撃を受けてしまった。
「っつ、一体何が……」
事態を飲み込めてない者までいる。

「アルバ、なんでこんな事をしたんだ!?」
スイバがアルバに食ってかかる。だがアルバとしてはこれで良い。他の事を考えさせる事で冷静さを取り戻させる、それが狙いだ。
「ふっ、頭は冷えたか?」
その時になってようやくスイバは自分の状態を飲み込めた。
「…確かに僕は自分を見失っていたかもしれない。しかしこれじゃ……」
これでは味方にも損害が大きすぎる。
「あのままでは死人が何人増えていたとしてもおかしくはなかった。
わざわざオレがルナトーン一体を潰してまでしたのであるから、感謝こそすれ、文句を言われる道理はないだろう?」
スイバは言い返す事もできない。

「まあこのままでは後味が悪いのはわかるな。」
そう言ってアルバは眼差しを戦場に向ける。
「何をする気なんだ…?」
スイバはただならぬ気配を感じた。
「受け取れ、オレからの施しだ!!」
嵐が止んだ。同時に、空間から暖かさを感じるようになる。
氷の大地にいるはずなのに熱が、まるで天から降り注いでいるかのようだ。
「何だ、この気高い空気は……」
チャンピオンのミクリまでもが驚いている。
「『ハイラウンダー』。このオレに相応しい、ただ一つ煌々と輝く太陽の力だ。」
この力に支配された空間の中ではポケモンの自己治癒能力が強化され、ダメージが時間と共に回復していく。
ガイのプリベンターと対局に位置する力だ。
通常、この空間では敵味方関係なく恩恵を受ける事ができるのだが、今回は例外が発生した。
グオォオオ!!
カイオーガが苦しんでいる。
深海生物であるカイオーガにとって太陽はまさに天敵。そして味方には活力が戻っていく。

本来の動きを取り戻し、スイバ達は畳み掛けるようにカイオーガに攻撃をしていく。
スイバは攻撃の合図から細かい立ち位置についてまで逐一指示を出す。
カイオーガは大分疲弊していた。
技を無駄に連発させたので、もう悪あがきをするしか手は残っていない。
これも全て、ジュンがカイオーガの左目を潰したおかげである。
回避も攻撃も非常にやりやすくなった。
スイバはもう誰も失いたくないという思いから防御基本の陣形をとっていた。

グオォォォォンッッ!!
カイオーガが闇雲に突っ込んでくる。
スイバ達はすぐに分散した。こういう集団対1の戦いでは敵に的を絞らせない事が重要だと学んだからだ。
カイオーガはそのまま直進して氷塊に激突する。
カイオーガは無防備な腹をさらけ出していた。チャンスだ。

「終わりだ、この一撃で仕留めよう!!」
スイバが力強く命令する。
雷が、吹雪が、サイコキネシスが、考えられるありとあらゆる最強の攻撃がカイオーガに集中した。
ただし、殺してしまっては元も子もないので、死なない程度に加減されている。
ギャァオォォォン!!
断末魔の悲鳴。
カイオーガにはもう地上で体を動かす力は残っていない。
体を痙攣させながらのた打ちまわっている。
如何に強力なポケモンであってもこうなってしまえば無力に等しい。

「仕上げはオレだな。
オレの栄光のために命を賭けて渡してくれたバトンだ。無駄にはしない。」
アルバは左手に機械付きの手袋を装着し、カイオーガへとゆっくりと歩いていく。
その顔には笑みが浮かんでいる。
強敵との決着。それは戦う者の味わえる最高の喜びだ。
腰から空のボールを取り出す。
紫色のそれは最高級品にして至高の性能を誇るマスターボールだ。

「行け!!」
カイオーガに向かってボールを投げる。
が、カイオーガ直前で見えない障壁にぶつかった。
ピッピピピピピ……
左手の機械、スナッチマシンが高速で解除方法を演算する。
液晶画面に次々と機械語が羅列されては消えていく。
最後の「Release」という表示はしっかりと確認できた。
ボールは障壁を抜け、カイオーガをデータ化しつつ吸い込む。
光となったカイオーガはだんだん小さくなってボールの中に収まった。
「捕獲完了!!」
アルバのその一言に皆の肩の力が抜ける。そして、
「やったぁー!!」
「うおー!!」
それぞれが勝手な歓声をあげる。
もう統率も何もあったものじゃないが、戦いは一応の集結をみたのだ。

雲が晴れ、急に日差しが顔を出す。
が、スイバはその様子がおかしい事に気がついた。
日差しが強すぎるのだ。
スイバの顔が曇る。
「向こうはまだ終わっていないようだね。」
「とは言ってもこっちにはもう余剰戦力はないのだよ。
この醜い太陽をどうにかするのはむこうに任せるしかない。」
ミクリの言い分はもっともだ。
トレーナー達に連戦を強いる訳にはいかない。そろそろ疲労も限界に達しているはずだ。この先の事について二人は互いの意見を交わす。
そこにアルバもやってきた。アルバは空を見上げる。
「歪んだ太陽、その力もまた強大だ。
しかし歪んだ太陽から降り注ぐのは本当に光なのだろうか?」
アルバが意味深な言葉を発した。



「メタルクロォォォッ!!」
ブラックのボスゴドラとグラードンががっちりと組み合う。
ボスゴドラからは赤いオーラが溢れていた。
ブラックの能力、パワービルダーによるものだ。
体内を駆け巡る力の余剰分がこのように知覚されている。
ブラックはその力を限界まで使い、ボスゴドラの攻撃力普段の4倍まで向上させていた。
そうまでしないととてもグラードンとはまともに戦えない。
鋼の爪が大地の爪とが鍔迫り合いを生じる。
パワーは互角。だがその分、ブラックが不利になっている。
力が均衡しても、体格と体重の面でグラードンを下回るボスゴドラはその重量差をもろに受けてしまうからだ。

「鋼の翼!!」
ダイゴのエアームドがそこに突っ込み、グラードンの頭部にダメージを与える。
エアームドの鋼鉄製の翼はナイフのような切れ味があるが、グラードンの前には大して意味がない。
グラードンの気が逸れた瞬間にボスゴドラは押し切ろうとする。
しかしグラードンはその時、重心を限界まで下げ、ボスゴドラよりも低くした。
そのままボスゴドラの力を利用して反対側に投げ飛ばす。
この動きは柔道の浮き落とし……俗にいう空気投げに近い動きだ。
ボスゴドラはたまらず背中から地面に叩きつけられた。
ガオォォォン!!
背中は鋼の装甲に守られていたが、受け身を知らないボスゴドラは首を痛めてしまったようだ。
グラードンはやたら器用だった。

「く、戻れ。」
ブラックはボスゴドラを回収する。
続くポケモンを出そうと手に力を込めた時、通信が入った。
「大変よ〜。」
いつも通りの間の抜けた話し方。こんな時でもヘキルは普段と同じだった。
「アベル君達がマグマ団に突破されたわ。
もうすぐそっちマグマ団がに行くかもしれないから警戒してね。」
「何!?」
アベルが負けた。
その知らせを受けた時にブラックは大きく取り乱した。
幸い、アベル本人の命に別状は無いらしいがカモネギは損傷が激しく、もう戦闘に復帰するのは難しいだろうとの事だ。
しかし、医療班の頭を悩ませているのはそのカモネギの傷らしい。
データの一部が欠損し、存在そのものの維持が困難になっているという。

「その症状、オレは知っている。」
横で聞いていたガイが口を挟んできた。
ガイはカモネギの処置法を詳しく伝えるとグラードンに背を向けてマグマ団の方へと向かいだした。
「おい、どこへ行く気だ?」
ブラックが呼び止める。
「あの力……オレが思っている通りのものなら、対処できる奴はオレ以外にいない。」
「幾らアベル君達が頑張って数を減らしたからって今一人でマグマ団に対抗するのは無理だ。
それにグラードンはどうするんだい?」
ダイゴもガイを制止する。

と、その時、ブラックの右側の方から一つのモンスターボールが飛んできた。
中から光と共にポケモンが出てくる。
デカい。
なんとそのポケモンはグラードンそのものだった。
2体のグラードンが取っ組み合いを始める。
「一体どうなってるんだ?」
グラードンと戦っていたトレーナー達にもさっぱり状況が掴めない。
と、モンスターボールの持ち主が現れる。
「待たせたな。」
岩盤の上に立っていたのはコウだった。

コウは今の今までグラードンに関するデータを可能な限り集めていた。
そして戦闘のデータがとれ、ようやくメタモンに完璧な変身をさせられるまでになったのだという。
「いいか、メタモンが変身できる時間は15分間。その間にマグマ団を倒せ。」
この場はコウが保たせるらしい。
ただ、メタモンはグラードンとは絶対的なエネルギー総量が違うので長期間は持たない。
また同種同士では決定力に乏しい。裏を返せば大したダメージは望めないとも言える。
そして、メタモンへの過信は禁物だ。
「了解した。10分で片付ける。」
ガイは自信満々に答える。
討伐隊残りのメンバーはマグマ団へと向かう。
むこうもこちらに向かっていたのでそんな時間もかからずに2つの勢力は鉢合わせした。
マグマ団の数は大分減っていた。
残っているのは少数の指揮官クラスの精鋭とリーダーのマツブサのみだ。

「やはりまだ敵がいたか。」
マツブサはやれやれといった表情で再びコータスを繰り出す。
ブラック達もすぐに攻撃を仕掛ける。
「チェェェェストォォ!!」
トレーナーの一部がマツブサに向かうがマツブサは涼しい顔のままその攻撃を受け流した。
「コータス、ダァァクファイアァァ!!」
闇の混じった暗き業火がポケモン2、3匹をまとめて焼き捨てる。
ブラックはその様子を見て強烈な概視感に襲われた。
ポケモンに宿る影と黒い光による攻撃。
一瞬の内にブラックの記憶の中でその光景がフラッシュバックした。
…そう、確かあれを見たのは煙突山だったはずだ。

「思った通り、ダークポケモンだったな。」
ガイが呟く。
先程船上で話を聞いていた時にもダークポケモンという単語は出ていたが、
ブラックにはいまいちそのポケモンの全貌がつかみきれていなかった。
だが今ならわかる。
あのコータスから溢れるばかりの狂気がダークポケモンの力を物語っている。
「ダークポケモンを知っているか。なる程、只のトレーナーではなさそうだ。
そこの青マント、私の相手をしてもらおう!!」
マツブサは有無を言わさずコータスでガイを直接狙う。
ガイも素早くボールからハクリューを出し応戦した。
「あのハクリューは!!」
ブラックにはそれに見覚えがあった。
忘れはしない、最初にガイと戦った時にボスゴドラに重傷を負わせたハクリューだ。
ガイの持つハクリューの中で明らかに異なる雰囲気がある。

「コータス、火炎放射!!」
「……竜巻だ。」
まずは小手調べといった所だろうか。威力的にはそこまで高くない技で互いの出方を伺う。
しかし、威力が低いはずの攻撃同士はあり得ないほどの閃光と轟音を立ててぶつかり合った。
ガイのハクリューは元々規格外れなほどの力を持っている。
一方のコータスはグラードンの力の影響下に入った事で飛躍的に炎技の威力が上昇している。
このぶつかり合いはコータスに分があったようで炎の一部が竜巻を突き抜けた。
「右だ。」
ハクリューが何事もないように平然と回避する。ハクリューの強みはその運動性能にある。

「あれ?今、ガイさん、ハクリューに命令していませんでした?」
ツツジがいつもとの違いに気づいた。
「確かに、彼らしくないな。」
ダイゴもツツジに同意する。これが普通のトレーナーなら何もおかしい事はない。
しかしガイに限って言えば、アイコンタクトで命令をできるのにわざわざ声に出して命令をする事はおかしい事なのだ。
「いや、あのハクリューが例外なんだろう。
あのオーラ、恐らくはあれがポケモンに制御を厳しくさせるほどの力があるんではないかな。」
ブラックがガイと一番最初に戦った時、あのハクリューには命令をしていた。
なのでブラックはむしろ送り火山で命令なしにハクリューを使役していた事の方に驚いたのだ。
しかし対幹部戦、対グラードン戦を見て、奴の技術力は痛いほど実感した。
ポケモンとの呼吸の合い方がそもそも違う。
だがあのハクリューにはそれが感じられない。もっとドライな関係が見えるのだ。

「やっぱりブラックさんは戦いに関しての洞察力が鋭いですね。」
ツツジはカナズミの学校時代を思い出す。
殆ど全ての授業でトップだった彼女はただ一つ「戦闘技術論」でブラックに負けていた。
まあ今の状況下ではそんな事を思い出していられる時間はあまりない。
一応彼女達も他のマグマ団員と戦っている。
もっとも、もうマグマ団に幹部級の使い手は残っていない上、こちらにはジムリーダー4人と四天王、
更に元チャンピオンまでいるのだから、倒すのに大して苦労はしない。

「龍の息吹!!」
ガイとマツブサの間では中距離での射撃合戦が続いている。
お互いにつかず離れずの距離を保ちつつ自分の最も効果的な間合いを見極めようとしているからだ。
「なんの、コータス、炎の渦!!」
火力が若干劣るハクリューの攻撃はコータスに全て掻き消されてしまう。
が、コータスの攻撃もハクリューに決して当たる事はなかった。
戦いは一種の膠着状態になっていると言っていい。
「このままでは埒があかない。そろそろ仕掛けるか。」
ガイのハクリューの尾が闇に染まり出す。
その様子を見てブラックは瞬時に思い出した。ガイはあの破壊光線を使う気だ。
コータスの攻撃を器用に避けながらハクリューは闇を集中させていく。
「最大出力で撃つと周囲も巻き込み兼ねないな……」
ガイは一考して周りを見渡す。
このハクリュー「オロチ」には自らの力を制御するような芸当を仕込んではいないのだった。
しかし悩むまでの事はない。
ポケモンが制御できないならトレーナーがその力を制御してやれば良いのだ。
何の前ぶれもなくガイは自らの能力を開放した。

「うおっ!!」
「きゃっ!!」
敵であるマツブサだけでなくツツジまで驚いて声を上げてしまった。
まあこの抑圧空間を初めて味わう者なら無理からぬ事だ。
この中にいるポケモンは敵味方関係なくステータスを下げられてしまう。
それは勿論ハクリューも例外ではない。
ハクリューが闇を溜め終える。後は目標に向かって放つだけだ。
ガイは狙撃位置を見定める。
コータス相手ならどのように撃っても当たるはずだが、ガイは何かを狙っている。
その殺気が尋常じゃない。ダイゴは背中に冷たいものを感じた。
「……破壊光線。」
静かに命令しているのがより不気味だ。
例の黒い光が一条、コータスに真っ直ぐ伸びていく。
「く、ダークファイアだ!!」
コータスが苦し紛れに闇の炎を吐く。その炎は破壊光線に比べて圧倒的に弱々しい。
ガイの力も働いているせいかアベルを倒したときほどの力は無かった。
破壊光線はそのまま何事もないように炎を突き抜ける。

「!!!?」
ダーク技はポケモンのあらゆる物質を無効化する。
攻撃であれ、防御であれ、全て消し去る事ができるはずだ。
その力で無効化できないもの、そんなものがあり得るのか?
マツブサの驚きは声にならない。
「一つ教えてやろう。ダークポケモンは技術さえあれば簡単に作れる代物だ。
あんただけが持っているわけじゃないんだよ。」
破壊光線がコータスを射抜く。
あらゆる物質を貫くそれはコータスに致命傷を与えた後、ある一点を目指していた。
そう、マツブサ本人である。
そのことにマツブサがガイの狙いに気が付いた時には全てが手遅れだった。
「うぐふぉっ!!!」
闇がわき腹をえぐる。
その激痛にマツブサはたまらず膝をつく。
破壊光線は地平の彼方へと消え去っていったが、威力を抑えてここまでやるのだから恐ろしい。

「ガイ君、これは……」
マツブサは脇から血を滴らせている。
ダイゴはガイが何の躊躇いもなく人間を傷つけた事に軽い苛立ちを覚えた。
「この程度なら死にはしない。一応、内臓も肋骨も外した。
ただ、ほっとけば出血と化膿で死に至る可能性もあるが。」
ガイは淡々と説明する。ダイゴが言いたいのはそんな事じゃない。
ポケモンバトルでトレーナーに危害を加えるのはトレーナーにあるまじき行為なのだ。
しかし今は戦時だ。マツブサもガイもホウエンの命運を賭けて戦っている。
そのような戦いにモラルや儀礼は必要ないという事をダイゴはわかっていない。
その点では甘いと言える。
「さて、マツブサ、こっちには医療スタッフがいる。
あんたの返答次第じゃ治療してやっても良い。
だからさっさと紅、藍二つの珠を返すんだな。」
珠が手に入ってしまえばグラードンの再封印は一気に楽になる。
最初からこの交渉を狙っていたのだ。かなりの策士である。

「……黙れ!!」
マツブサがキレた。
「決裂か。そうなるとオレはあんたを殺してでも珠を奪わないといけなくなっちまう。
できればやりたくはな……」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!!!」
マツブサがガイの言葉を遮るようにして怒鳴り散らす。
「どうしてなんだっ!!どうして皆私の邪魔ばかりするんだっ!?
何故私の言う事を理解してくれないっ!?
私はぁ、私はぁぁぁぁ!!!!」
完全に発狂している。

マツブサの腰のポーチから赤い光が漏れだす。
急いで取り出したそれは紅色の珠だった。
まるで今のマツブサの精神状態を表すかのように激しく明滅している。
「おお、神よ、あなたはまだ私を見放してはいなかったのだな!!!」
マツブサはその珠を高く掲げる。

ドスン!!
鈍い音がブラック達の後ろから聞こえてきた。
見るとグラードンが倒れている。いや、それはグラードンではなく変身したメタモンだ。
蓄積したダメージで変身状態を維持できなくなったメタモンは元の紫の塊に戻る。
そしてその後ろにグラードンが仁王立ちしていた。
「すまない。15分持たせると大見得切っておきながらこのザマだ。」
グラードンを追うようにしてやってきたコウが謝る。
「気にするな。おかげで手間が幾らか省けた。悔やむより今後の対策を練った方が良い。」
そう言ってブラックはグラードンを見上げる。
グラードンはその凶暴性を更に増していた。ソーラービームをこれでもかと吐き出し続ける。
建物だろうとポケモンだろうと、そこら辺にある物は片っ端から破壊していく様はさながら地獄絵図のようである。
住民は既に脱出しているとはいえ、いたずらに損害を増やしたくはなかった。
「街が……早くあいつを止めないと。」
ダイゴがグラードンに向かって駆け出そうとする。

「まあ待て、話を聞いてからでも遅くはない。」
コウが呼び止める。その表情は作戦前に見せる、いつもの表情だ。
「何か考えがあるようだな。」
2年間も一緒に戦ってきているのだ、ブラックにはコウの心情の察しがつく。
「作戦ってほどのものでも無いんだが、グラードンを倒す方法を見つけた。」
コウはそこら辺にあった木の枝を取ると地面にグラードンの絵を描く。
「なまじ知恵があるからだろう、グラードンは致命的なミスをした。
知っての通り、メタモンは正しいデータを与えれば、その通り100%再現する事ができる。
つまり、弱点も元のポケモンと一緒なわけだ。
さっきグラードンは『自分』を倒すために自分の弱点を突いた。それがここだ。」
コウは自分で描いたグラードンの脇の下辺りを指し示した。
「データを洗い直して分かった事だが、ここの2番目の筋が最も壁が薄い。」
「なるほど、要はここを攻撃すれば良いんだな。」
「いや、ブラック、ただの攻撃だけでは致命傷にはならない。
出来れば最大級のヤツを、それも両脇から叩き込むのが最も効果的だ。」
コウはグラードンの両側に矢印を描き加える。そしてグラードンにバッテンをつけた。
「最大級、か。それも2体……1体は俺が用意できるが、もう1体はどいつが行く?」
ブラックのポケモンは誰がどう見てもこの中では破壊力が1番だ。
「オレは囮役の方が良いだろう。マツブサは明らかにオレを狙ってくるはずだ。と、なると……」
「ボクがやろう。」
名乗りを上げたのはダイゴだった。
「それが良いな。二人共、メタグロスを持っていたな?
『クリアボディ』を持つあのポケモンならガイの能力下でもステータスに変動はないはずだ。」


配置を確認すると、各自持ち場につく。
作戦を立てている間、前線は一般トレーナー達が戦ってくれていたが、それももう限界のようだ。
後はジムリーダー4人と四天王のゲンジが受け継ぐ。
ブラックとダイゴは建物に隠れてグラードンがやってくるのを待つ。
その間にダイゴのメタグロスもブラックは強化していた。
「はあ、はぁ……」
ブラックは一気に12段階分も力を使ったのでだいぶ体力を浪費してしまった。
「ブラック君、大丈夫か?」
「これ位ならまだ平気だ…。これでもオルドビスの過酷な訓練を耐えてきた身だからな。」
実のところ、ブラックの疲労は限界に近かった。
前日の送り火山の戦闘からずっと緊張の連続だったからだ。
それでも、まだ倒れるわけにはいかない。今のブラックの体は闘争心によってのみ支えられていた。

「ドラゴンクローじゃ!!」
ゲンジのフライゴンがグラードンの背後から迫る。
が、グラードンは後ろに目が付いているかのように尻尾でフライゴンをはたき落とした。
「あの反応速度、メタモンと戦ってた時とは桁違いだ。」
端末の数値を見ながらコウが呟く。マツブサの精神状態が影響していそうだ。
コウは苦い顔をする。このまま仮に近づけても近距離で迎撃されてしまう可能性が高い。
「こっちだ!!」
ガイはマツブサを挑発して注意をそちらに向けさせる。ハクリューもグラードンの前に踊り出た。
ハクリューはグラードンの懐に飛び込み、相手が回避不能な距離で龍の息吹きなどの技を浴びせる。

「何をやってるんだ!!そんな奴、とっとと潰せぇぇ!!」
マツブサの怒号がこだまする。
グラードンは爪を振りかざすがハクリューの前にあっさりかわされてしまう。
続いて尾。これも僅かに身を引いて射程外へ。
ガイは予め敵の間合いギリギリの位置で攻撃を仕掛けさせていた。
相手は攻撃の度に踏み込む必要がある。その踏み込みで徐々に作戦位置へと誘導しようと考えたのだ。
ビュンッ!!
3撃、4撃目が空を切る。
指定位置まで後20m。が、ここでグラードンは攻撃を停止した。
突然真下に向かってソーラービームを放つ。

「くっ!!」
ガイのハクリューは大きく後退せざるを得なかった。
腐っても神と呼ばれるポケモンだ。自分が誘導されているのに気づいたらしい。
マツブサの指揮下でも相変わらずグラードンは自身の判断で動いている。
それがグラードンの行動を読みにくくしている原因だ。
「どうする?」
建物の影に潜んでいるブラックは向かいの建物のダイゴに聞く。
「焦るなブラック君。
何があっても絶対に飛び出すなよ。ボクらが出ていったら作戦は失敗する。」
グラードンは動かない。その場でソーラービームを乱発している。
ハクリューはもう間合い内に飛び込めそうになかった。
「手段を選んではいられないか……」
ハクリューはグラードンを挟んでブラック達とは反対側へと回り込む。

「何をしているんだ?そっちじゃないだろう。」
コウはガイの行動を理解できない。
「見ただろ?グラードンはこっちの狙いに気づいてる。
だったらもう強引に押し込むしかない。ハクリュー、アレをやるぞ!!!」
ガイの剣幕は尋常じゃない。破壊光線を撃つ時より格段に殺気を込めてハクリューに命令をする。
ハクリューはただ静かに頷いた。闇がハクリューの全身を覆い隠す。
その黒いオーラの放つ力は大地を震わせた。凄まじいまでのパワー。
ハクリューはダークオーラの力を極限まで引き出しているのだ。

ダークオーラ
それは滅びの力。全てを見境なく破壊するその力は使い手にまで牙を向ける。
その力を使うタイミングを見誤れば勝ち目はなくなる。たった1度のまさに必殺技。
「ダァァァァクエンドォォォッッ!!!!」
ガイの形相がとても形容し難いものとなっている。
闇の解放。
全身に溜められた闇を自らの身体と共に敵にぶつける。
迫りくるハクリューにグラードンはソーラービームを放つがその光はハクリュー表面で反射する。
闇は全てを拒絶するのだ。
「ぬうっ!!だがグラードンは負けぬ!!」
マツブサもその力に恐怖を感じる。
が、グラードンは自らの判断で手を前で交差して受けきろうとする。

ズガガガガッッ!!
激突の衝撃で周囲の建物が壊れる。
グラードンとハクリューは押し合いとなった。
闇の力を得たハクリューの力は1t近いグラードンすら動かす。
グラードンも踏ん張るが、地面がえぐれるばかりでとどまることができない。
これだけの力を持つダークエンドだが、決定力にはならない。
余りに莫大なエネルギーを集中させるので敵に大技を使うのを教えているようなものだからだ。
グラードンが徐々に指定位置に近づく。
ダイゴが合わせるためにブラックへ指でサインをだす。
ブラックも頷く。自然とメタグロスの入ったモンスターボールを握り締める腕に力が入った。
ずるずると押し込まれてグラードンが目の前までやってくる。
チャンスは今しかない!!

「行け!!」
「出ろ!!」
二人は同時にボールを放る。
鋼鉄の四肢を持った巨大な2つの鉄の塊がグラードンへと一気に踊り出た。
突然の伏兵にグラードンは気が回らない。
「コメットォォォッッ!!」
グラードンが反応する前にすぐに攻撃に移る。
ダイゴの脳裏にこれまでの戦いの様子がフラッシュバックした。
「パンチィィィィッッッッ!!!!!」
ブラックは気合いを込めて叫ぶ。
最強強化での最高威力の一撃。
ハガネの力を纏った拳が激しく輝きを放ち、グラードンのわき腹へと叩き込まれた。
寸分も違わぬ命中。
両側からの攻撃で力は逃げ道を失いグラードンの体中を駆け巡る。
ハクリューを受ける為にグラードンは両手が塞がっていたのでガードができない。
そこにガイが抑圧空間でサポートを入れる。防御力の低下した皮膚にヒビが入る。

グオオオォォォォォォォォッッ!!!!!!
鼓膜が破れるかというほど巨大な叫び声。
同時に、3匹のポケモンは一斉にグラードンから飛び退く。
この声を最後にグラードンはぐったりとしてしまう。
「そ、そんな……」
マツブサはその光景をただ黙って見ている事しかできなかった。
目の前で神が崩れ落ちる。

ガイがグラードンに近寄る。その右手にはモンスターボールが握られていた。
スナッチマシンを起動させながらグラードンの額にボールを押し付ける。
グラードンはみるみるうちに小さくなり、ボールの中にデータとして収まった。
「スナッチ完了!!」
ついに、グラードンは捕獲されたのだ。
「戻れ。」
トレーナー達は自分のポケモンを回収し、戦闘体勢を解除する。

そんな中、ようやく我に帰った人物が一人。
「う、うあああああぁぁ!!」
ポケモンを失って追い詰められたマツブサが自棄になって突っ込んでくる。
ガイは無言で足をかけ、転ばせる。
地面に這いつくばったまま、マツブサはガイを睨んだ。その眼には憎しみが宿っている。
そのマツブサを見下ろして、ガイは言い放つ。
「あんたに何があったのかオレは知らないし知りたくも無い。
だからオレはあんたが間違っているかどうかも判断できない。
実の所、ホウエンがどうなろうと知った事じゃ無かった。
ただ、オレはまたあいつらの手のひらで踊らされるのが我慢できなかっただけだ。」
マツブサはその言葉を聞いてはっとした顔になった。
「あいつら?もしかしてお前はあの女がどこにいるのか知っているのか?」
「あの女、というのが誰の事かは知らんが、想像は付く。
結局、あんたはただの駒にしか過ぎなかったって事だよ。」
マツブサは愕然として肩を落とした。
「やはりガイ君の読み通りか。」
「これであいつら……シルフカンパニーが手を引いてくれれば良いのだがな。」(第6章・終)



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