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追章「平穏」



「私が彼女に出会ったのは、会社をクビになり、借金を抱え込んでどうにもならなくなった頃だった。」

治安局の被疑者用病院でマツブサは淡々と語り出した。
その顔にマグマ団を束ねていた時の威厳は無い。
「家に舞い込んだ一枚のビラ。そこに書かれていた講習会という名の布教会に私は出席した。
そして私はその教えに感動し、すぐさま入信した。」
マツブサと同時期に入信したメンバーにカガリとホムラがいる。その時に説教をしていたのがフィアーという女性だったらしい。
彼女は「大地への帰還」を唱い次々と信者を獲得していった。
マツブサは熱心に布教活動に参加し、その功績で上級の幹部に抜擢されたのだ。

「宗教活動というものは思いのほか儲かった。
借金はみるみるうちに減り、逆に金には余裕ができた。
そんな風に何もかもが軌道に乗ってきた最中の事だ。彼女は突然姿をくらました。」
教祖を失った団体は混乱を極めた。だがマツブサはその事態を収集し、実質のトップになる。
そしてマツブサはフィアーの路線を右傾化させ、実力を交えた形で大地への帰還を果たそうと考えた。
そしてマグマ団が設立されたのだ。
「今思えば彼女は私のやり方を以前から把握していたように感じる。
私が会社をクビになったのも、もともとはその過激な手法が原因だったわけであるし、だからこそ幹部にまで登りつめられたのだと思う。」
そこで、マツブサは口を閉じた。


他の2人の幹部にも話を聞いたが、結果は同じようなものだった。
ただ、一つどうしても分からなかったのは、リュウをどういった理由で雇うようになったのかだ。
以前から腕の良い賞金稼ぎとして何回か依頼をしていたらしいが、最初に頼んだのがいつ何の依頼かは誰も覚えていなかった。
アルバやコウによるとフィアーがまだ教祖として君臨していた頃からのお得意様だったと考えると辻褄があうそうだ。
そうなるとリュウがフィアーに関して何かしらの事実を知っている可能性があるわけだが、
現在はマツブサの回線からも連絡がつかなくなってしまっている。
リュウと因縁のあるスイバだけは最後までリュウの捜査を主張したが、ついに打ち切られる事が決定した。



「私はこれ以上ホウエンで依頼を受ける気はない。」
とある一室で、リュウは毅然とした態度で断った。
「『覇王』については我々の落ち度だった。
こちらが総力を上げて戦っても勝てるかどうかは微妙な相手だ。正面から戦える程の力は君には無いだろう。」
ウシオは笑顔の仮面を付けていた。
この笑顔がダミーである事は今までの付き合いから理解している。
「そうじゃない。前回の戦闘で強力な道具の殆どを使い切ってしまったからな。
大口の依頼は暫く無理だ。」
建て前上はこう言ってはいるが、完全に言い訳である。
リュウは今でもあの戦いを思い出すと右手の震えが止まらなくなる。
賞金稼ぎを廃業しようかと考えた程だ。


リュウが部屋を出て行った後、柱の影から一人の女性が出てきた。
美しい金色の髪に端正な顔立ち、すらりとしたプロポーション。何もかも完璧な容姿は神々しさまで感じさせる。
彼女は今の会話を全て聞いていたようだ。
「行かせちゃって良いの?」
「確かに彼の技術と特殊能力は非常に有用だ。
しかし私はこの間面白い玩具を拾っていてね。それさえ有れば彼は暫く必要ないんだよ。」
ウシオは笑顔で答える。
「相変わらずね。その頭の回転の良さ、私は好きよ。」
いたずらっぽい笑みを浮かべてウシオをからかう。

「冗談はその辺でよしてくれないか。本題に入りたい。
で、わざわざ君が出てくる程の用事は一体何かな?」
確かにホウエンはカントーとは余り離れてはいないが、一応辺境なのである。
わざわざ上の人間が出張してくるにはそれなりの事情があるはずだ。
金髪の女性は紙きれをひらひらさせながら話し出す。
「これ、とりあえず命令書ね。ホウエンからの撤退順序が載っているわ。」
ウシオの顔が僅かに引きつった。
「ホウエンから撤退するのかい?せっかく人脈やら施設データやら色々揃ったのに。」
「やっぱりね。ただ命令書出しただけじゃ絶対戻って来ないから、私に無理矢理回収しろって上が言ってきたのよ。」
「まあ君ほどの人にわざわざ来ていただいたのだから、逆らえないけど。でも何故だい?」
「中東の方でやってるプロジェクトの人手が足りないの。
だから撤退はあくまで一時的な物よ。こっちで確保した新たな部下達を連れてそっちに行ってね。」
ウシオは渋々承諾した。自分の力が必要ならそちらに行く方がスジだ。
「デボンめ、命拾いしたな。だが待っていろ。私は必ず帰ってくる!!」



結局海をいくら捜索してもジュンの死体らしきものは発見されていないので扱いは「行方不明」となっている。
ホウエンの法律では3年安否が確認できないと死亡が確定するが、これはもうかなり絶望的な状況であった。
ジュンは今回、唯一の犠牲者となってしまったのだ。
しかし一歩間違えていたら死んでいたのは誰もが同じだ。
ブラックはその事を考えると背筋に寒いものが走った。
ブラックは自分の中にはジュンを失った悲しみよりも生き残った安堵の方が大きい事に気づき、やりきれない気持ちになった。

「ジュンの両親に連絡は?」
ブラックはスイバに尋ねる。
「もうしたよ。」
スイバはやつれた声で返事をした。やはり責任を感じているようだ。
「そうか。」
ブラックもそんなスイバを察してか、それ以上は何も聞かない事にした。
が、スイバは隻を切ったかのように話し出した。
「ジュンの両親、泣いてた…それでも言ってたよ…きっとジュンはみんなを守って死んだんだって……
僕があの時、きちんと指揮できていればこんな事には……」
スイバは静かに肩を震わせていた。
考えると、辛い役割ばかりスイバに押し付けてしまっていた。
ブラックにはかける言葉が見つからなかった。



「父さん、真実を話してくれませんか?」
突然社長室にずかずかと乗り込んできたダイゴはツワブキに詰め寄った。
「真実も何も、お前は全てを知っているのではないのか?」
ツワブキは訪ね返す。
「僕にじゃない、彼らにですよ!!」
彼ら、とは当然オルドビスの団員達を指している。ダイゴの目には怒りが宿っていた。
ダイゴはそのまま一気にまくし立てる。
「彼らは知る権利がある。
言ったらどうなんです?ジュン君が命を落としたのはこの会社の権益を守るためだったと!!」

「お前の口から言えば済む事だろう。」
ツワブキは冷たい態度をとる。
「あなたの口からでないと意味が無いんですよ。
オルドビスはあなたの発案で発足した。あなたには責任がある。
ガイ君が話した事で彼らはマグマ、アクアの背後にシルフカンパニーが着いているという事については既に知っています。
後はあなたが『事件の根本』について話すだけです。」
ダイゴは言うべき事を全て言うと来た時と同様に勢いよく部屋を出ていった。
残されたツワブキは頭を抱えて悩んだ。と、机の隅の紙束が目に入る。
それはコウがまとめたシルフ側の戦略の資料であった。


表紙には大きくこう書いてある。
<ホウエンの経済的支配に関するレポート>

この資料によると、彼らの最終目的はグラードンとカイオーガの接触によって起きる天変地異にあったようだ。
その天変地異でホウエンのライフラインをズタズタに引き裂き、困窮させた上で自分達が救援物資を送る。
そうするとあっという間にホウエンはシルフの製品に支配されてしまうというわけだ。
実によく練られた戦略であると思う。
一体コウはこれだけの機密情報をどのように入手したのであろうか。
ツワブキは一通り目を通すと資料を置く。
「ダイゴめ、言うようになったじゃあないか。私も老いたという事だな……」
ツワブキは遠い目で窓の外を見た。そして何かを決心したように立ち上がった。



オルドビスの面々はルネビルの講堂に集められていた。
マグマ、アクアがいなくなった今、オルドビスはその役目を終了し解散する事が決まっており、これがオルドビスとしての最後の集会になりそうだ。
その後の身の振り方も各人決まっている。
今後、オルドビスは正式な警備会社に転向し、ブラックを含む一部のメンバーはそのまま就職する。
スイバはフリーのトレーナーをしばらく続けてから動向を決めるようだ。
そしてコウは情報屋に、アベルは道場の師範代へと、それぞれ自分の帰るべき所へ戻る。


集会はツワブキ社長の前説から始まった。
「諸君、今までよく頑張ってくれた。
君達の活躍により、グラードン、カイオーガによる被害は最小限に食い止められた。本当に感謝している……。
しかしここで私には諸君に謝らなければならない事がある。」
ツワブキは今まで黙っていた事実を話し出した。
そもそも今回の件の発端はデボンとシルフが共同開発したある技術である。
その技術で限定的な条件下で捕獲能力が飛躍的に向上するモンスターボールを量産する事ができるようになった。
今までそういったモンスターボールは手作りで一つ一つ作らなくてはならない物であったのだ。

本来、この技術はシルフが自社のボール開発のためにデボンに協力を依頼して出来たものであった。
しかし、デボンはその技術とモンスターボールの基本生産技術を持ち帰り、無断で盗用してしまった。
法廷で仮の決着は着いたが、シルフ側の損失は大きく、恨みを買う事になってしまった。
そしてこの時点ではシルフの真の恐ろしさをツワブキはまだ知らなかったのだ。
知っての通りシルフカンパニーは売上高十数兆円で世界2位の巨大企業であり、その額は地方財源の数倍にもなる。
シルフはここまで大きい会社になるために多数の裏の手段を駆使してきた。
そして今回もその「裏社会的手段」を使ってきたのだ。


各企業が最も恐れたのは自分達の権益。
それを守るために企業連合まで組織し、オルドビスを建てた。
「元々は私達が巻いた種だった。その尻拭いをさせてしまったようで本当にすまない。」
ツワブキは俯いた。
「何言っているんです。ホウエンが危なかったのは事実ではありませんか。」
最初に席から立って言ったのはスイバだった。
「そうだ。悪いのは実力で排除にかかったシルフであって社長じゃあない。」
ブラックも続いて立ち上がり雄弁を振るう。するとあちこちの団員が賛同する。
会場は社長は悪くないというコール一色に染まった。
「お前達……」
ツワブキの目には光る物が浮かんだ。

「そんな事で社長を責めるようなちっぽけな人間はここにはいません。
どんな過程であれ俺達は奴らを追い返したんだ。もう終わったんですよ。」
ブラックの言葉に皆頷く。
「やはり私は老いたな……こんな事なら悩まずに早く話してしまうべきだった。」
ツワブキは1度深呼吸をすると最後を締めくくった。

「ありがとう!!これをもって私はオルドビスの解散を宣言する。」
ツワブキは周りを見渡すと一礼して壇上を降りた。(ホウエン編・完)



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