×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

第5章「胎動」



「マズいな……」
ブラックの目の前に立ちはだかるのは大勢のマグマ団員。
60人…いや、80人はいるだろうか。
対するブラック側は30人足らず。数では3倍近くの差がある。
だが、これしきの事でいちいち足止めされていたら、いつまで経っても目的地にたどり着けはしない。

「全軍、かかれぇー!!」
敵の中隊長らしき人物が号令をかけ、それを皮切りにして一斉にマグマ団員がモンスターボールを投げる。
「こちらも始めるぞ。ダンバル隊、前へ!!」
ブラックの指示の下、オルドビスの隊員達もポケモンを出し、横一列に並べる。
そのポケモンは15匹のダンバルだ。
金属球に足が1本生えたようなその体は見るものに独特の圧迫感を与える。

「突撃!!」
ダンバルは突進以外の技を使えないが、この数で行えば相手に相当のダメージが与えられる。
統制のとれた布陣で突進するダンバル達。敵は密集しているためにダンバルに次々と倒されていく。
「何をやっている、とっとと倒さんか!!」
数で押しているはずの自分達が逆に押されている事に対し敵は苛立っている。
マグマ団の戦いは決して統制のとれたものでは無い。個人個人がばらばらに好き勝手に動いている。
だが、逆にそのせいで動きが読みにくくもなっていた。

「行け、レアコイル!!」
ブラックも敵の攻撃に対して自らのポケモンを出す。
そして襲いかかってくるゴルバットやグラエナの攻撃をそのレアコイルを先陣にしたコイル隊が防ぐのだ。
コイル隊は電気ショック等の技を駆使して敵を撃ち落とす。
だが敵も執拗にブラック達を攻撃する。相手のポケモンを3匹倒してもこちらも1匹が倒される。

集団と集団の戦い。
これはもうポケモンバトルじゃない。

戦争だ。


それにしても、何故このような事になったのだろうか。
まずは2週間前の潜水艦強奪事件から説明しておいた方が良さそうだ。

リュウの襲撃により、オルドビスはこれまでからの路線の変更を考えざるを得られなくなった。
リュウはまだオルドビスという組織の存在に気付いてはいなかったが、気づくのも時間の問題であった。
だったらいっそのこと、マグマ団にはもうオルドビスの存在がバレているものとして行動した方が良いということだ。

その矢先、今度はアクア団がカイナの造船所を襲おうとしているという連絡がコウから入った。
因みにまだコウはメタモンは回復しきっていなかったが、もう諜報活動は再開していた。
カイナシティにある造船所では、現在高性能な海洋調査用潜水艦を建造中である。
敵の目的はこれの奪取にあると思われる。

すぐに作戦が立てられ、ブラックとアベルが共同で造船所を守る事となったが、
結果としてはこの人選が失敗の元となってしまう。
敵はオルドビスの想定を上回る動きをしてきたのだ。
入り口の前に4人、裏口にも3人を配置し、
町を出入りする人間も一人一人チェックするといった念入りな警戒体制の下、奴らはやってきた。


その日はひどく静かな夜だった。
見張りは交代で行って、夜中も監視を続けていたのだが、
裏口の警備をしていたサイゾーが妙な物音を聞いた。
シャッターが開くような、そんな音だ。
報告を受けて、ブラックとアベルも駆けつける。

「確かにその音が聞こえたんだな?」
ブラックがサイゾーに聞く。
「ええ、間違いありません。」
おかしい。今日は祝日だったので、残業はおろか出勤している社員すらいない。
一瞬、ブラックに嫌な予感がよぎる。しかし、町にアクア団らしき人物が入ったという報告も無い。

「とにかく一度、中を点検した方がよさそうでござるな。」
アベルの言う事が正しい。
それでも、罠の可能性は捨てきれない。
そこで見張りは引き続きそのままにしてブラックとアベルだけで造船所内に入ることになった。

中は静かなものだった。暗闇のなかにひたすら自分達の足音だけが聞こえている。
「そら耳だったんじゃないか?」
造船所内は平穏そのものという感じだ。
「いや、まだ奥まで行ってみない事には分からぬな。」
ブラックは、アベルの冷静さを少し羨ましく思った。と、その時

ゴッゴゴゴ
「何だ、この音は?」
突如として鳴り出した轟音。
「ブラック殿、これは注水音ではござらぬか?」
間違いない。この音はドックに水が流れ込む音だ。
「ってことは……」
「先ほどサイゾーが聞いた音はドック区画で閉鎖シャッターの閉まる音ですな。」
ブラックよりも早くアベルが状況を分析する。
つまり、アクア団は既にこの造船所内の、それも潜水艦の保管してある区画にまで潜入している事になる。

「ったく、分からない事だらけだ。一体連中はどこから侵入しやがった?」
問題はそこだ。警備に穴があったとはとても思えない。
ならばなぜここまで深部にまで侵入されても誰一人として気が付かなかったのか?
「ブラック殿、外への連絡は?」
「今している。だが多分間に合わないだろう。」
結局、2人だけで対処しなければならない。

とにかく走る。そして見えてきた鉄の扉。だがそこは堅く閉ざされていた。
「ブラック殿、下がっていて下さらぬか?扉を斬らせてもらうとしよう。」
アベルはいつも腰に携えている日本刀の柄(つか)に手をかける。

一閃。
ブラックにはアベルが刀を抜く動作すら認識することが出来なかった。
次の瞬間には扉はもう両断されていた。
「相変わらず見事な腕前だな。」
ブラックの口から思わず感嘆の声が漏れる。
「今ですぞ、突入!!」
扉の残骸を踏みつつブラックとアベルはドック内へ急いで駆け込む。
見下ろすと潜水艦はもう半分ほど水の中だ。
注水が始まってここまで10分。つまりは後10分しか時間が無い。
まず倒すべきは端でコンソールをいじっている男。頭につけているのは見間違えるはずない、アクア団のバンダナだ。
しかし、ウェットスーツを着てる時まであのバンダナをしているとは、アベルも少々驚いた。
扉を斬った事で向こうもこちらの存在に気が付いたらしくモンスターボールを構えている。

「行け、レアコイル!!」
「出でよ、カモネギ!!」
先手必勝とばかりにブラックはレアコイル、アベルはカモネギを出す。
「く、後は頼む。」
敵が出してきたのはホエルコだ。ホウエンではかなり一般的な水ポケモンである。
それしか持っていなかったのか知らないが、電気タイプを出している相手に水ポケモンなどただのやられ役だ。
その男はポケモンを出してもまだコンソールの操作を止めない。

「カモネギ、燕返し!!」
「ホエルコ、水の波動!!」
カモネギは一瞬でホエルコとの間合いを詰める。
目にも止まらぬ速さで繰り出される袈裟切り。その一撃でホエルコは倒れた。
だがその直前にホエルコは音波の塊を発射していた。しかしその音波はレアコイルとカモネギを大きく反れる。

「どこを狙って……」
「いやブラック殿、まずいでござるよ。」
その音波は外壁へと着弾する。と、そこから水が漏れだした。
ここは海抜がマイナスの位置にあるという事をブラックはすっかり忘れていた。
「今だ!!」
アクア団の男がもう一つボールを投げる。今度はサメハダーだ。
その男はサメハダーにつかまり水中へと逃げる。

「逃がすか、10万ボルト!!」
レアコイルの6つの磁石から電撃が迸る。
海水は電解質な為、淡水よりも圧倒的に電気を通しやすい。
電流が海中を眩く紫色に照らす。

「グポッガガポ!!」
水中にいたために叫び声を上げられずに息を吹き出す音だけが聞こえる。
まあこの一撃でトレーナーもろともサメハダーは倒されただろう。
ただ、この男の開けた穴のせいで水の流入するペースが上がり、既に潜水艦のほぼ全体が水中に沈んでいる。

ウィィィィン!!
潜水艦のスクリューが回転を始めた。
どうやらこのアクア団員は置いていくつもりのようだ。
「ち、動き出したぞ。どうする?」
ブラックが焦る。
「こやつらにくれてやる位ならいっそ破壊するのが筋であろう?」
確かに、敵に悪用されるよりは被害が少なくてすむ。

「でもどうやって?今のレアコイルの電撃も一切受け付けなかったしさ。」
この潜水艦にはブラックの鎧と同じ対量子攻撃装甲を採用している。
元々は水中での不意の野生ポケモンによる攻撃を防ぐためのもので、並のポケモンの攻撃ではびくともしない。
「水中でなければ両断出来るのであるが……ブラック殿、水ポケモンは持っておるか?」
「いや、鋼タイプしか持っていない。鋼と水を両方持つポケモンはホウエンにはいないしな。」
しかも鋼ポケモンは例外なく比重が水より重いので沈んでしまう。
呼吸ができない水中では力も入らないのでブラックのポケモンのパワーも活かせない。
「実は拙者も持っていない。せめてミナがいれば……」
アベルが珍しくぐちをこぼした。
この間にも潜水艦の出航準備は着々と進む。
しかし、まだ出航用のゲートも開いていないのにどのように出る気なのだろうか。

ガコン!!
潜水艦からスクリュー音以外の音がした。
「マズい、これは魚雷発射管の開口音だ。」
ブラックが判断する。
「魚雷?そんなものが付いているなんて言われてないでござるよ?」
それでもこの音は他にあり得ない。
潜水艦を守るための装備としてこれ以上強力なものは無いし、逆にこれ以外に敷設出来る装備は無い。
魚雷発射管なんてこの世界ではありふれた技術だ。
「アベル、いいから伏せろ!!」
ブラックが強引にアベルの頭を掴んで床に伏せさせると同時に発射された魚雷の空気圧推進の音がする。

ドガガガガ!!
爆発。アクア団の連中は脱出するために隔壁を強引に破壊したのだ。
破片が宙を舞い、水柱が立つ。
アベルとブラックは階段の上のまだ水没していない所にいたから無事だったが、
水に浸かっている部分にいたら確実にアウトだった。それは波面を見れば嫌でも理解出来る。
先ほどの男は水中にいたために恐らく命はないだろう。
レアコイルとカモネギは飛んでくる破片を全て撃ち落として難を逃れた。
「助かったようでござるな。」
アベルが顔を上げる。
「水中で活動出来るポケモンさえいれば追えたはずだったんだがな。」
ブラックは落胆した。

ピピピ、ピピピ……
と、アベルの腕の通信機が鳴り出す。
「はい、こちらアベル。」
「おう、アベル、無事だったか。爆発を観測したものでな。」
通信はコウからのものだった。
「ああ、こちらに被害者はいない。ブラック殿も大丈夫だ。」
「その様子だと潜水艦は盗られたようだな。」
「完全な人選ミスだ。俺やアベルじゃ水中までは追えない。」
ブラックが答える。
「とにかく、一度戻って来い。話はそれからだ。」
ブラックとアベルは未だ水の流入が収まらないドックを後にすることにした。

1週間が経った。今は潜水艦強奪事件のためにルネビルに集まっている。
「これが今回の戦利品だ。」
ブラックがアクア団員の死体から回収したウェットスーツや他の潜水装備、
その写真をコウがプロジェクターで投影する。
「これを着てたホトケさんの名はトモユキ。ミナモシティに住んでいた会社員だ。
隣人の話では今年の2月ごろからおかしな宗教にはまっていたそうだ。恐らくは海王学会だろう。」
因みに海王学会はアクア団の宗教としての顔だ。

「で、一体奴らはどこから湧いてきたんだ?
ブラック共が腑抜けだった、ってだけじゃ納得しないぜ?」
ジュンもそこが気になっているようだ。
「それについてはまずこれを見てくれ。」
コウがプロジェクターの絵を差し替える。続いて映し出されたのはホウエン地方の地図だ。
「ここがカイナシティだ。そして奴らはここから来たと思われる。」
コウはカイナよりもだいぶ右の方を指す。その場所に一同は驚愕した。
そう、そこはカイナから見て遥か東のキナギタウンだ。

「おいおい、キナギからカイナは直線距離で軽く数十kmはあるぜ。どうやって来たんだよ?」
ジュンの質問はもっともだ。
「この水路はとても海流が速い事で有名だ。
この海流に乗っていけば小型のボートでも2時間もかからずにカイナに着く。」
そんな作戦を立ててくるとは、コウも全く予想していなかったのだ。
「奴らはカイナ沖に着くとボートを乗り捨てて海に潜り、海中から造船所に侵入した。
ついでに奴らが乗ってきたと思われるモーターボートも回収済みだ。」
コウが淡々と説明する。
「拙者達は港からの人の出入りは一応調べてはいたのでござるが……」
それでは沖から直接侵入されても分からないというわけだ。
これでブラックもようやく奴らの侵入経路が分かった。

「さて、報告事項はこれくらいか。これで解散としよう。」
コウの報告が終わり各自持ち場に戻る。
持ち場とはいっても、平時にやる事は限られているので、情報収集をするコウ以外は結構暇だ。

そのコウは最近ますます忙しそうに何かを調べている。
何か新しい事実を掴んだようなのだが、他の隊の人間には教えてはくれない。
更に、時たまどこかにふらっと行ってしまう。
「おいコウ、どこに行くんだ?」
ジュンが呼び止めても、
「別にどこでも構わないだろう。」
とそっけなく答えるだけだ。


コウの向かった先で中年の男性が迎えてくれた。
白髪混じりのツンツンと逆立った特徴的な髪型を見るだけで誰だか分かる。ツワブキ社長だ。
「やはり『奴ら』の事を皆に教えるべきだと思うのだが?」
コウがツワブキ社長に問う。
「今はまだ早い。それにアクアとマグマの裏に本当に『奴ら』がいるという確証は無いのだよ。」
ツワブキ社長が答えた。
「『奴ら』がこの事件に関与しているのはほぼ間違い無いだろう。
今までにアクア、マグマの連中から回収した道具はまだ市場に出回っているはずの無いものばかりだった。
そんなものを作れる組織は他に考えられない。」
「その様子だとコウ君、君はロケット団事件の真相も知っているようだな。」
「当たり前だ、社長。このコウに知らない情報は無いからな。」
コウは自信満々に答えた。

しかし、やっぱりコウにも掴めていない情報なんてこの世にはごまんとあるわけだ。
1週間後、コウはそれを思い知らされる事になる。
特に今回は致命的となりかねない結果を招く。


リュウによってコウの存在に気づいたマグマ団は必死になって情報を隠匿した。
だから情報が遅れた。気づいた時にはもう遅い。
「スイバ、大変な事になった。───ってな感じにな。」
慌ててコウはスイバにその情報を送る。
「それ、本当か?だったら早く他のメンバーを呼ばないと。」
コウから連絡を受けたスイバはすぐにブラック、アベル、ジュンを召集する。

「緊急召集とはまたえらい騒ぎですな。一体どうしたでござるか?」
「実はコウから連絡があってね。どうやらマグマ団の大軍勢が送り火山に向かっているらしいんだ。」
「そりゃあ厄介だな。あの辺の森は昼間でも暗い上に雨も降り易いからとても戦いづらい。
ここはまた俺とアベルで行くしか無いな。」
他の地方からやって来たスイバとジュンには無理だ。
慣れていないとあの特殊な地帯では戦えない。
そうなると必然的にホウエン出身のブラックとアベルの出番だ。
「別にその程度、全部ぶっ飛ばしゃあ良いだけのこったろう?」
ダメだ、ジュンはあの土地の恐ろしさを理解出来ていない。

「待った、相手はマグマ団なんだよね?なら僕が行かないとまずいんじゃないかな。」
そうだ、マグマ団にはあのリュウがいる。
奴と渡り合えるのは何度も奴と対峙した事のあるスイバをおいて他にいない。
「あー、面倒くせーな。もう全員で行っちまおうぜ。」
確かにジュンのその提案がベストかもしれない。
だが、その選択肢は次の通信で除外される。
この会話に割って入ってきた通信の主は珍しくヘキルだった。

「みんな〜、大変なのよ〜。」
そんな口調で言われると、どう聞いても大変そうには聞こえないのですが?
「姉貴、今度は一体何なんだよ?」
「なんかね〜、アクア団基地から大型の物体が発進したようなのよ〜。」
コウが配置していた対アクア団用のカメラからの映像を監視中に彼女が発見したものだそうだ。
コウは今必死にマグマ団の軍勢の解析をしていて取り合ってくれないのでこちらに映像をまわしてきたらしい。

「これって……」
映像をみたスイバが黙り込む。
見事な流線型のボディ、黒光りする装甲、間違いなくあの潜水艦だ。
「こいつは放って置けないでござるな。」
さて、困った事になった。
ここの4人を2つに分けてそれぞれの勢力を追わなければならないのだが、
4人の中で水中戦が出来るのはスイバ一人。
しかしスイバはリュウとの決着を望んでいる。
そして、残りの3人は全員どれも水中向きではない戦闘方法をとる。
一応ジュンは水タイプのヌオーを所持してはいるが、あれは沼地のポケモンであり、海への対応は正直微妙だ。

「こうなったらジャンケンにしよう。
勝った奴がマグマ団の追跡、負けたらアクア団を追って水中だ。2人残るまで続けるぞ。」
ジュンの一言で決定方法が決まった。これなら恨みっこなしだ。
「せーの、ジャーンケン……」



「ブラックはこっちで良かったのかい?」
「ああ、水中は何が何でもゴメンだったんでラッキーだった。」
ブラックとスイバはグーを、ジュンとアベルはチョキを出して勝負は1回で決まった。
結果こうしてスイバとブラックはマグマ団を追っている。
ジュンとアベルは今ごろデボン特製の小型潜水艇に乗せられているころだろう。
ブラックとスイバの部下は合計で62人。オルドビスの作戦としては今までで最大の人数が動員されている。
だが今回、敵の団員の人数は不明。今コウが必死に調べているがなかなか難しいようだ。

送り火山はホウエンで唯一のポケモン追悼施設であり、盆と彼岸には毎年多くの人間が墓参りに来る。
山の中をくり抜いて作られた墓には数万匹のポケモンが眠っていると言われている。
その場所はミナモシティから西に行くのが一番早い。
だが、ミナモシティには海王学会の総本山がある。
流石にアクア団の目の前を突っ切る程のリスクを冒す訳にはいかない。
なのでわざわざ遠回りしてカイナからキンセツに抜ける道を選んだ。
デボンが手配してくれた高速艇は水上を80ノット以上という驚異的なスピードで移動し、あっという間にカイナへと着く。
そこからはカゼノさんが開発した最新型のブースト自転車で一気にキンセツシティを越える。
ブースト自転車はそれまでの自転車を越える速さと最高のハンドリング性能を持ち合わせているだけでなく、
長い草むらでもすいすい走れるという特性があった。
この性能が以前スイバ達を迅速に天気研究所に向かわせた。
だが今回は長い草むらを回避して南側から送り火山に向かう。

順調に目的地に向かう第1、第2部隊であったが、後少しという所で行く手を遮る者が現れた。
スイバ達の目の前には人間の壁。この全員がマグマ団の団員だと思うと少々頭が痛くなる。
「どうする?強引に突破するか?」
ブラックが腰のモンスターボールに手をかける。
「強引にって言ったってこの人数を相手にしていたら日が暮れるよ。」
スイバの言うことはもっともだ。
「ならこうしよう。俺がこいつらを引きつけておくからスイバは第1部隊と共に先に行け。
俺もこの戦闘が片づいたら後を追う。」
もちろんそれはこのマグマ団全員を倒せたら、の話だが。
「…分かった。ここは君に任せるよ。」

スイバ達はブースト自転車のペダルを思いっ切りこぐ。
それを制止に向かったマグマ団の前にブラックが立ちはだかった。
「おっと、お前らの相手はこの俺だ。」
その間にも第1部隊34人との距離はどんどん離れていく。
マグマ団の連中はスイバ達を追おうとはしなかった。
それにしても多い。なんでこんな人数を投入してきたのだろうか。
ブラックの第2部隊は28人。果たして勝てるかどうか。
「マズいな……」
ブラックは舌打ちをした。



森林地帯を進むスイバの目の前が急に開ける。この湖の中心に聳え立っているのが送り火山だ。
ここまで来ればもう目と鼻の先。だが敵はやっぱりそう簡単に通してくれそうにない。
「遅かったな、スイバ。ここで待っていればいずれ会えると思っていた。」
そう、あのリュウが現れたのだ。しかもおまけに大量のマグマ団員を連れて。
「悪いけどリュウ、今は君の相手をしている暇はないんだ。」
もちろん、そう言ったくらいで簡単に引き下がるような奴なら誰も苦労しない。
「今回の依頼は『マグマ団に仇成す敵を全て葬る』事。
よってお前はここで私に倒されなければならないのだよ。」
やはりどうやってもここで戦わないと先には進めないらしい。
もともとスイバもリュウと決着をつけるためにマグマ団の迎撃を引き受けたのだ。
今更引き下がるつもりは毛頭ない。
「じゃあ早く始めよう。僕は先を急いでいるからね。」

二人はほぼ同時にモンスターボールを手にとり投げる。
スイバはラプラス、リュウはボーマンダを出す。
「ラプラス、怪しい光!!」
「ボーマンダ、捨て身タックル!!」
互いに自分の戦略は既に知られている。だったら先手を打った方が良い。
序盤から壮絶な戦いが展開される。
動きを止めようとするスイバと止められる前に勝負を着けたいリュウ。長期戦になれば明らかにスイバが有利だ。
混乱させられたせいでボーマンダの捨て身タックルは完全にはヒットしなかった。
それでもラプラスにはそれなりのダメージを与えられたはずである。

一方、性別が一致しなかったためにメロメロというさらなる拘束がかけられないラプラス。
「だけど、他にやり方はいくらでもある。のしかかり!!」
ラプラスはランターンと違いパワーと耐久力が高いので力技でもいける。
しかもただの力技ではなく、相手を麻痺させるのしかかりである。
少しでも多くの状態異常を相手に与える、それがスイバの戦い方だ。
ラプラスは全体重をかけてボーマンダを押し潰す。悲鳴をあげるボーマンダ。
「変わったな、スイバ。以前はこんなに状態異常技を多用しなかっただろう?」
「君を倒すために6年間考え抜いた結果だよ。」


6年前、一人の老婆がポケモンに襲われていた。
偶然、その現場を目撃したスイバはその老婆を助けようとした。
しかしその老婆を襲っていたポケモンはリュウがやらせていたのだ。
詳しくは分からないが、老婆はある企業の違法取引現場を目撃していたらしく、
リュウはその企業から老婆を抹殺するように依頼されていた。
人が殺されるのを黙って見ていられるようなスイバではない。リュウとスイバは対立し、戦闘となった。
しかし当時まだ12才だったスイバが既に賞金稼ぎとしてある程度名のあったリュウに勝てるはずもなく、あっさりとあしらわれてしまった。
そしてスイバの目の前で老婆は殺害された。リュウはポケモンを使わず、自ら手を下したのだ。
リュウはスイバを殺さなかった。殺す価値も無いと判断したのだろう。
スイバはその日から3日間寝つく事ができないほどショックを受けた。
たった一人の人間を救う事もできない自分をとても憎く感じた。
力が欲しいとどれほど願っただろうか。

その戦いはリュウにとっても印象深い戦いだった。
子供相手に能力を使わなければならなかったという事がリュウのプライドに触った。
だから殺さなかった。スイバに絶望を与えるために。
だが、スイバはリュウの思っていた以上に精神的に強い人間だ。スイバは再び立ち上がった。
そしてこの時、スイバにはある変化が訪れていた。

能力の発現。

リュウという能力者との接触がきっかけとなり、スイバの遺伝子が目覚めたのだ。
この力にヒントを得てあの戦略が生まれる。
そしてその戦略を極める事にスイバは時間を費やした。
彼にとっては全ての戦いが実験だ。常により効果的な戦術を研究し続けていた。

彼は今、持てる知略を尽くして最高の戦術を組み立てる。
相手が動けなければ安心して攻撃ができる。逆に言えば相手がそれなりに停止しないとスイバは攻撃に移る事は無い。
スイバと戦った者は大抵、もう一度彼と戦う事を拒絶する。
何故ならスイバが相手だと自分の思い通りに戦闘が進まない。
リュウも今、自分のポケモンが思い通りに動かない状況を身をもって体験していた。

「ボーマンダ、火炎放射!!」
命令から技が発動するまでの時間がいつもより恐ろしく長い。更に発動しても明後日の方向を攻撃してしまう。
行動を阻害し、遅くする麻痺と感覚を狂わせ命中性を下げる混乱。
しかもスイバはまず最初に迷わず混乱の方からボーマンダにかけた。
スイバは徹底的なリスク管理の基、最小限のダメージしか負わないようにしている。
その上、性別が♂と♀の対決だったらメロメロまで追加されていたはずだ。
そうなると、ボーマンダはもう手も足も出せなくなっていたであろう。

「ラプラス、冷凍ビームだ!!」
ラプラスの攻撃は見事なまでにボーマンダに正面から当たった。
ドラゴンタイプと飛行タイプの両方を持つボーマンダは氷タイプ技に非常に弱い。
いくらスイバのポケモンには攻撃力が足りないと言っても連続である程度の時間照射すれはボーマンダを倒せる。

ギャォォオオン!!
凄まじい断末魔の叫びと共にボーマンダが倒れる。
「まずは1匹。」
ここまではスイバの目論見通りだ。
「なるほどな。だが前哨戦は終わりだ、本気でかかるぞ。
さあやれっ!!第2ラウンドの始まりだ!!」
リュウの命令からここでも集団戦が開始する。
こちらの方ではマグマ団の人数はブラックの所よりも少ないが、リュウが指揮を執っている分手ごわい。
そしてリュウも2匹目のポケモン、フライゴンを出す。
「僕の前にどんなポケモンを出そうとも僕はいつものやり方をするだけだよ。相手のポケモンの種類は意味をなさない。」
「そんなセリフはこいつを倒してから言うんだな。」
リュウの「力」が勝るのか、それともスイバの「知略」が勝るのか。
2人の意地のぶつかり合いは果てしなく続く。



「何匹残っている?」
ブラックが部下達に問う。敵の増援の影響で予定よりも消耗が激しい。
戦ったマグマ団員の総数は140人以上。倒したポケモンはそのおよそ3倍。
ブラック本人ですら既に手持ちのうち4体のポケモンが戦闘不能に陥っている。
「残り15匹です。」
部下の一人が全員の手持ちポケモンを確認して言った。
出動前は全員で100匹以上は所有していたポケモンが残り15匹。
ブラックの残りポケモンを合わせても17匹だ。

「しょうがない……まだ動ける者は負傷者を連れて撤退だ。
残りのポケモンは全て護衛に回せ!!」
今スイバを孤立させるのは危険だが、こうでもしないと部下に死者が出かねない。
ここからキンセツのポケモンセンターまでは直線距離で15km。ブースト自転車ならおよそ20分で着く。
だがそれでは手持ちポケモンの治療をした後、ここにまた戻ってくるには最低2時間はかかる。
その間、スイバ達は援護無しに送り火山にたどり着けるだろうか?
しかし考えてみるとブラック達はマグマ団にはかなりの痛手を与えた。
これならスイバも多少は戦い易くなるだろう。

「28人全員揃っているな。なら早々に立ち去るぞ。」
戦闘中は特殊な箱に収納していたブースト自転車を展開し、走り出す……事ができなかった。
人の気配がする。
「囲まれてます。」
ブラックの部下が報告する。
その報告に合わせるかのようにして隠れていたマグマ団員が次々と姿を現す。
その数、約40人。
これがトレーナーの数ではなくポケモンの数だったらまだいくらかマシだった。
普段ならこの程度の戦力差はどうにでもなるが、消耗している今は違う。
「諦めるな、まだ希望はある。」
ブラックはそう仲間に言い聞かせて戦いを始めた。

敵ながらマグマ団の攻撃はなかなか見事なものだ。
こちらがあまり長くは戦えないのを承知の上で持久戦を仕掛けてくる。
そのくせ弱ったポケモンには容赦が無い。ブラック達の戦力は瞬く間に減っていった。
ブラックのハッサムも7、8匹のポケモンに取り囲まれ、集中攻撃を受けている。
「戻れ、ハッサム……くっ、これが最後の1匹か……行け、ハガネール!!」
この戦場に残っている味方の数は残り少ない。いつまで持ちこたえられるものかすら怪しい。
「ハガネール、アイアンテールだ!!」
鋼鉄の尾がハガネールのまわりにいる5、6匹のポケモンをまとめて吹っ飛ばす。
ハガネールはブラックの所有しているポケモンの中で最も高い防御力を有する。
そう簡単にはやられないとは思うが、長引けば長引く程不利な事に変わりは無い。
はっきり言って、状況は最悪だ。ブラックの脳裏に「敗北」の二文字がよぎる。
と、その時だった。

「何だ、あれは!!」
異変に気が付いたマグマ団員の驚きの声に全員がそちらを向いた。
それは巨大な竜巻だった。
しかし今まで、この地域は無風に近い状態だったはずだ。見たところ、大きな雲も無い。
明らかに不自然だ。
そこに存在してはいけないものがそこにある。

その竜巻はまっすぐとこちらに向かってきていた。
木々をなぎ倒し、土を舞い上げ、岩を砕きそれはゆっくりとやってくる。
その圧倒的な存在感は皆に戦いを忘れさせ、思考を停止させた。
自らの眼前にその恐怖を叩きつけられるまで、その場にいる者はそれに魅せられ続けた。
ただ一人を除いて。
「逃げろ!!」
ブラックの一声でその場の人間は皆、我に帰った。
きちんとした訓練を受けているオルドビスの隊員達はすぐさま回避の行動に出る事が出来たが、
マグマ団の連中はパニックを起こして何もできないでいる。

まだ少し距離があるにも関わらず、凄まじい風と埃に目を開ける事ができない。
竜巻は、あらゆる物体を破壊する。敵か味方かなどは関係ない。
大量のポケモンを飲み込む様はさながらブラックホールだ。
竜巻が過ぎ去った後には屍の山が積み上げられている。
幸か不幸か、オルドビス隊員は全員無事だった。
ポケモンもなんとか無事だ。ブラックのハガネールはその質量のおかげで吹き飛ばされずにすんだ。

「今のは何だったんでしょうか?」
部下が疑問を口にする。竜巻は戦場を通過すると間もなく消滅した。
まるで最初からマグマ団とブラック達を狙ったように。いや、本当に狙ってやったのだ。
この状況から導き出される答えは一つ。
「誰かのポケモンが『竜巻』の技を使ったに違いない。」
ブラックにはそれ以外に考えられない。
しかし一体誰が?並のポケモンではこんな事はできるはずがない。
「ほう……よく無事でいられたものだな。」
その声がした方向、竜巻の作り出した荒野を静かに歩む男がいる。
彼の傍らには白き龍。
彼は群青のマントを翻し、不敵に笑う。
全てを抑圧する絶対的存在が今、舞い降りた。

マグマ団が倒されてもブラックにとって状況は一向に良くはなっていない。
むしろ今が究極に最悪だと言っても良いくらいだ。
「お前は……」
この場で最も出てきて欲しくないやつが出てきた。
[暁の暴風]ガイ
謎多き経歴を持ち、桁違いの力を持ったトレーナー。
分かっているのはそれだけ。

ブラックはハガネールを自分の前に来させる。いつ戦いが始まっても良いように。
「まあそう身構えるなよ。オレとあんたの目的は今は一致しているはずだ。
あんたの目的は送り火山をマグマ団から奪回する、そうじゃないのか?」
「だったら……」
「『敵ではない証拠を出せ』か?それは無理な話だ。
今は敵じゃなくてもいつまた戦う事になるかは分からない。
それにオレを敵と見るかどうかはあんたの主観の問題だからな。」
つまり、今ここでガイと対立するか共闘するかの選択権はブラックの手に委ねられている。
ガイにとって、オルドビスが敵に回ろうと味方になろうと大した差は無いのかもしれない。
だが、ガイにとって問題がなくともブラックにとってこの差は大問題だ。
当然、今ここでこの男と対立するのは得策では無い。

「分かった。この場はお前に協力しよう。仮にもピンチを救ってくれたわけだしな。」
あのまま戦闘が続いていたら確実に負けていた。
「共闘か。まああんたらと一戦交えても3分でカタが着いただろうがね。
こっちも無駄な体力は使いたくは無い。
本当はさっきの攻撃であんたらごと始末する予定だったけど、まあその辺は許せ。」
ブラックは前言を撤回したくなった。
どうやらオルドビス側に怪我人がいないのは奇跡に近かったという事が判明した。

「お前達は撤退作業を続けろ。もうこれ以上は戦えないだろ。」
「隊長はどうするんですか?」
「俺はここに残る。まだ戦う事はできるからな。」
戦えるのはハガネール1体だけだが、ブラックはやれるだけの事はやるつもりでいる。
「お喋りはそこまでのようだ。
足手まといはとっとと帰るんだな。敵の増援がやってきたぞ。」
ガイの指す方を見ると、また更に50人以上のマグマ団員がこちらにぞろぞろと来ている。
「よくもまあこう次から次へと……一体何人いるんだ?」
ブラックは倒したマグマ団員の数をざっと思い浮かべてみる。
「そういう文句はこいつらを処理してからだ。クサナギ、好きにやれ。」
クサナギというのはガイのハクリューの名前らしい。
ガイは目を閉じて深呼吸をして集中力を高める。と、次の瞬間、ガイから殺気が溢れだした。

「!?」
空気が凍り、時間が止まったかのように辺りが静寂に包まれる。
ブラックにはこの感覚に覚えがあった。そう、初めて店で対峙した時に味わったあの感覚だ。
この殺気がガイが本気で相手を叩きのめすという意志を示している。
そのまま流れるようにハクリュー(クサナギ)はマグマ団の大軍勢に突っ込む。
1対50という戦力差にも怯む様子はまるで無い。むしろハクリューにこれまで以上の活力を感じる。

……それはもう戦闘では無く、舞のようであった。
呼吸をするのと同じように敵を葬る。一撃、また一撃と確実に。
ある時はまとめて、またある時は個々に技をキメる。敵には動く暇さえ与えない。
オルドビス第2部隊が総力をあげても苦戦していた相手をガイはものの数分で全て倒しきっていた。
「ははは、これじゃまるで…」
よく出来た喜劇だ。ブラック達が完全に道化と化している。
先程からブラックは一切戦闘に手を出してもいないのにこの有り様だ。
「ま、現実なんてそんな物さ。」
そう笑うガイの周りにはおびただしい数のポケモンが横たわっている。
「それにしてもこれはやり過ぎなんじゃないか?」
ポケモンだけでなくマグマ団員までもが既に虫の息だ。
「大丈夫だ、殺しちゃいない。」
竜巻の時も人間が死なない程度には加減されていた。
このまま放置しても、これだけの数だから容易に発見され彼らは助かるだろう。
病院も割と近い。
もっとも、そこで彼らは逮捕されるだろうが。

「さて邪魔者も片づいたし、そろそろガイ、お前の目的を聞かせてもらおうか。」
その邪魔者を倒したのはガイ一人であり、ブラックは何も役には立っていないのに何故だか偉そうだ。ガイは面倒くさそうに、
「マグマ団の送り火山からの排除。それが不可能な場合は珠の奪取のみ。」
と、簡潔に述べた。
「珠って?」
聞き慣れない単語にブラックは思わず聞き返してしまった。
「送り火山の頂上に安置されているやつだ。」
それを聞いてブラックも何の事だか理解した。
送り火山にはポケモンの魂を鎮めるために紅と藍の2つの珠が置かれている。
相当古い物で今は観光の一種の目玉となっている。
「多分、あれが伝説上の『神の宝玉』だ。」
ガイのその言葉を聞いてブラックは一瞬で青くなった。
「神の宝玉」位ホウエンに住んでいれば誰でも聞いた事はあるはずだ。
それはホウエンの古代神話に登場する神を御する力を持つ物体を指す。

伝説上では宝玉は2つだ。
その2つを送り火山の珠に置き換えて考えてみると「紅色の珠」は陸の神グラードンを制御する珠なはずだ。
ただし、グラードンが手に負えなくなった時カイオーガを復活させてグラードンを抑える機能がある。
そして「藍色の珠」はその逆だ。

「つまり、グラードンの復活に必要なのは藍色の珠なわけだな?」
ブラックがガイに確認する。
「そうだ。そして操るためには紅色の珠を使う。だから珠は2つとも奪取しないと意味が無い。」
2つの珠は互いを牽制しあうように作られているのは、前人類が神の力の暴走を恐れての事だろう。
「なるほどな、だから出土した時には2つの珠はバラバラの地点で見つかったのか。」
ブラックは当時の新聞記事を思い出した。
「問題はそこでは無い。必要な道具さえ揃ってしまえばアレは復活してしまうという事だ。
たとえそいつに操るほどの技量が無くてもな。」
神の宝玉、神の身体、復活させたいという人間の意志。その3つがあれば、あとは関係ない。
「マグマ団の人間に神を操れる奴はいないのか?」
「ああ。アレはオレでも制御は不可能だ。
虎を野に放つのとその虎を乗りこなすのではわけが違う。つまりはそういう事だ。」
ガイにも扱えないという事はほぼ全てのトレーナーが不可能だと言っているのと同じ事だ。
「じゃあ、何でマグマ団は神を復活させようとしているんだ?暴走するのは分かり切ったことなのに!!」
野に放たれた虎は確実にその野に放った者を襲う。そんな事、火を見るより明らかだ。
「簡単な話だ。連中は暴走の危険性を教えられてない。」
「『教えられてない』だと?お前、何を隠している?ここで言え!!でないと拷問してでも吐かせるぞ!!」
ブラックは勢いでガイの襟を掴んでいた。
「詳しくは言えない。
ただ一つあんたに言える事は神が復活することで利益を得る人々がいる、という事だけだ。」

ブラックにはそんな連中の心当たりは全く無かった。
ホウエンに大災害が起きて利益を得る者?そしてそいつらはマグマ団に指示を出しているというのか。
ガイが何かを知っているのは確実である。
ブラックの知らない所で裏の戦いがあるという事だ。
ブラックは掴んでいたガイの襟を放した。この男は絶対に話す事はないという事位ブラックも理解している。

「だったら尚更急ぐぞ、ガイ!!」
「それは良いんだが……」
ガイは少し困ったような顔をしている。
「まだ何かあるのか?」
「実はオレは道を知らない。案内してくれ。」
それでよくここに来ようと思ったものだ。
ここらは森が深く、慣れてないと迷ってしまう。
考えてみればジョウト出身のガイがこの辺の道に詳しいわけがない。
「ああ、地獄だろうと何だろうと案内してやるよ!!」
ブラックの返事は極めて明瞭だ。



「本当にこんなポンコツで大丈夫なんだろうな?」
慣れない水中という事もあり、ジュンは不安そうに潜水艇に乗り込む。
「さあ?アタシに聞かれても答えようが無いわね。」
耳が良いという理由からソナー用員として乗らされる羽目になったミナが答える。
「この状況でまず心配なのは自分よりも神であろう?
ひいてはそれがホウエン全体の安全につながるのだからな。
そんな事をいちいち気にしていられる程拙者達に余裕は無いぞ。」
どうやらデボンの上層部はジュンを艦長として乗せるのは不安だったのか、艦長にはアベルを指名してきた。
アベルとて水中での戦闘経験があるわけでは無い。
しかし、今残っているメンバーの中で最も統率力に優れているのは間違い無く、
デボンも少しでもリスクを下げたかったのだろう。

潜水艇は探査用の物を急遽改装したために小型で居住性が低い。
そのうえバッテリーは連続使用12〜13時間が限界というなんともお粗末な物だ。
アクア団に奪われた潜水艦は量子エンジンを採用し、
水中で軽く数ヶ月は活動出来る優れものだという事を考えると雲泥の差がある。
ただ、小回りと限界潜行震度、各種センサー類は元が探査用という事もありこちらが上回っている。
「師範代、出港の準備が完了しました。」
ブリッジ要員のサイゾーが報告に来る。
「よし、タンク注水、潜行開始!!」
アベル以下オルドビス構成員8名はアクア団の向かった深海へと旅立って行った。



「そこだ、ブレイズキック!!」
一瞬の隙を突き、リュウのバシャーモがスイバのランターンの側面から必殺の一撃を叩き込む。
避ける術も無くランターンは炎に包まれる。
「も、戻るんだ、ランターン。」
「炎タイプに負けているようではお前のランターンもたかが知れてるな。」
リュウはいつも通りの余裕の表情を崩さない。
しかし現状ではスイバのポケモンは3体しか倒されていないが、
リュウはバシャーモを5体目のポケモンとして出しているので、スイバが勝っている状況に変わりは無い。
そして、計算高いスイバが今の戦闘で、バシャーモを無傷なままにさせているわけが無い。

「それはどうかな。君のバシャーモは混乱と麻痺を併発して、もうろくに動けないはずだよ。
僕をなめてもらっては困るね。」
スイバもリュウに負けない位に余裕をかましている。それでもリュウには効果が無い。
「もうお前の戦闘スタイルは見切った。対処法ならいくらでも立てられる。」
前回の戦いの時点でスイバの戦略はリュウも学習している。
実際、状態異常技を繰り出される前になるべくダメージを与えれば戦闘は大分楽になるのだ。

「へぇ、だけどこのポケモンはどうかな?バシャーモじゃ絶対に倒せないよ。」
そう言ってスイバはモンスターボールを投げる。
スイバが出したのはキュウコンだ。
特性「貰い火」により相手の炎技を完全に遮断する上に、自身が炎タイプでも相当な上位に位置する強力なポケモン。
よく刀で槍に勝つには3倍の力量が必要だと言うが、このキュウコンに炎タイプで勝つには4倍は力量が無いと無理だ。
「面白い。その自信、見事に砕いてやる!!」
リュウはまんまとスイバの挑発に乗ってしまった。
恐らく普段のリュウなら冷静に考えてポケモンを交換していたはずだ。
勝てない戦いはしないのが本来賞金稼ぎの主義なのだ。
だが、長年の宿敵を前に気分が高揚している今のリュウにはその判断ができなかった。

「バシャーモ、二度蹴り!!」
「キュウコン、電光石火だ。」
バシャーモがその強靭な左足でキュウコンを蹴り上げようとする。
だがキュウコンはその攻撃を右前足の一足飛びでかわす。
そして逆にがらあきになった軸足の右足に対して突っ込む。
バランスを崩して倒れた所を上から押さえ込み動きを封じた。
「キュウコン、火炎放射!!」
そして至近距離からの一撃。
この距離からではキュウコン自身も炎に巻き込まれてしまうが問題は全く無い。
その炎がまたキュウコンに吸収され、無駄のない熱攻撃を生み出すのだ。
いくら格闘戦闘の得意なバシャーモであっても、
前の戦いで受けた混乱と麻痺というハンデを負ったままではキュウコンにかなうはずもなく、あえなく撃墜された。

「相手の動きを奪った上で更にタイプ相性、自分の特性までも活かした攻撃……
なるほど、ようやくお前のとる戦法の意味を理解できた。
つまりは全て、相手との力の差をカバーするための戦術……」
「その通りだよ、リュウ。
僕にとって状態異常技とはその差を埋めるための道具の一つでしか無い。」
力の差をいかにして覆すかを常に考え続ける事こそがスイバの戦術。
「ならばどのような事をしても抗えぬ絶対的な『力』でお前を叩き潰すのみ!!」
リュウは最後の手持ちポケモンを放つ。
中身は勿論ケッキングだ。前回の戦いの傷も見た目は完全に治っている。
あの時はコウがある程度のダメージを与えてくれていたおかげで撃退できたが、
今度はスイバ一人の力でこのケッキングを倒さなければならない。
しかし、言い知れぬ不安がスイバを襲う。
前には感じなかった妙な威圧感をケッキングから感じるのだ。

「まずは動きを止めてやる。キュウコン、怪しい光だ。」
キュウコンの尾から発したいくつかの明滅する光がケッキングの周りを漂う。
しかし、ケッキングは意に介さずにそれを無視している。
「き、効いてないのだろうか……」
スイバにしてみれば、ここで違和感の正体に気づくべきだった。
「愚かだな、スイバ。理解できないようなら理解させてやろう。ケッキング、気合いパンチ!!」
いつも通りの溜めの無い気合いパンチ。
しかし大きく振り上げた拳はキュウコンよりも大幅にズレている。
「良かった、混乱にかかっているようだ。」
スイバはその動作からケッキングに混乱をかける事ができていると思った。
ケッキングが拳を振り下ろす。
その位置はケッキングから見てキュウコンとは2mほど離れているのは明白だ。
だが……

ドガッッ!!!!
轟音と共に拳の当たった部分の地面が「消失」した。
その衝撃はキュウコンにも伝わり、キュウコンは大きく吹っ飛ばされる結果となる。
そしてキュウコンを見ると、地面に叩きつけられた傷以外にも無数の切り傷がついていた。
それはケッキングの拳圧による物だ。
「こ、これは……」
スイバは絶句した。
なんという破壊力──
まるでミサイルが着弾したかのような凄まじさだ。
威力だけを見てみれば、ブラックが能力解放したメタグロスに匹敵、いや、上回るかもしれない。
触れてすらいないキュウコンが大ダメージを受ける程の技とは……
「どうだスイバ、これが圧倒的な『力』という物だ。おや、驚いて声も出せなくなったのか?」
唖然とするスイバを見て、リュウは満足そうだ。

「実は私には今までの戦闘の経緯がある程度予測済みだったのだよ。
前回の戦いの時にお前の力量を理解した時に、私はお前に勝つ為の方法をいくつも考えた。
そしていくつかの道具を用意した。
どれも超難度の依頼の報酬で得た貴重品だが、お前に勝つ為には惜しくは無い。
これは破壊の遺伝子と呼ばれる量子データで、ある企業から譲り受けた特注品だ。」
付加させたポケモンの攻撃力をおよそ4倍に引き上げる代償に理性を失わせる悪魔のデータ。
スイバにどうせ混乱させられる技を使われるのなら最初から自分から混乱をし、大きな力を得ようと考えたのだ。

「流石だね、リュウ。こんな奥の手を隠していたなんてね。正直困ったな。」
スイバは必死に対抗手段を考える。そして、頭の中で作戦に若干の変更を加えた。
「このケッキングを倒すのはお前には無理だ。やれ、ケッキング、乱れひっかき!!」
ケッキングが闇雲に手を振り回すだけで周囲の岩や木が紙切れのように引き裂かれていく。
キュウコンは近づく事すらできない。
「キュウコン、接近して鬼火だ!!」
だが、あえてスイバはキュウコンをケッキングに向かわせる。
近距離でないと皮の分厚いケッキングが火傷を負うはずが無い。
キュウコンの尾の先が燃え盛り、ケッキングを包み込む。
しかしキュウコンも爪の一撃をくらってしまった。腹が裂け、血がどくどくと滴る。

「戻れ、キュウコン!!」
モンスターボール内ならば傷の進行を抑えられる。
しかしそれとて永久に保つ訳ではないので早急に手当てが必要だ。
それ程の代償を払ってまでスイバがした事は、ケッキングに火傷を負わせる事。
これにより、ケッキングの攻撃力は現在の半分つまり普段の2倍にまで減った。
そして同時に火傷のダメージは相手の体力を消耗させ続ける。
後15分程耐えられれば、ケッキングは勝手に力尽きるはずだ。
あとは時間との戦いとなる。



急にガイが足を止める。
「どうする、お客さんだぜ?」
ブラックもすぐに気づいた。
こちらに伝わるひしひしとした殺気。それが徐々に向かってきている。
今までの雑魚団員とは明らかに違う。
「戦いはできれば避けたい。俺達は急がなければならないから。」
ブラックには一つ気がかりな事があった。
森の奥に進むに従ってコウやスイバと連絡がつかなくなってしまっていたのだ。
マグマの連中が妨害しているのか、ただ単に木々が邪魔しているだけかは分からないが、
現在の状況を知るためにも一刻も早くこの森を抜けたい。
「甘いな、ブラック。
こんな殺気を出せる連中だ、きっとマグマでも上位の人間に違いない。
こいつらを捕まえれば有力な情報や計画の細部も聞き出せると思うぞ。」
ガイもブラックも戦って負ける可能性を一切考えていなかった。
さっきまでのような集団戦ならブラックも逃げる事を考えただろうが、今度の敵は少数だ。
1対1なら勝てない道理は無い。
ようは時間との兼ね合いと消耗する体力の問題だ。
「俺は先に行きたい、で、お前は敵を倒したい。
ならばここでお前がそいつらと戦っている間に俺が勝手に行きゃあ良いんじゃないか。」
「ま、あんたがそうしたいならそうすれば良いさ。
ただ、もしオレがあんたなら素性もよく分からないような奴に何度も借りを作るようなマネはしないだろうがよ。」
ブラックは少し考える。
確かにこのままではブラックのプライドはズタズタなままだ。
トレーナーとしての自信をここまで傷つけられたのに黙っていたとあってはブラックの名がすたる。

「よし、俺も戦うとするか。確かに貴様の手を借りるのはもうごめんだな。」
ブラックも臨戦態勢をとる。と、森の奥から殺気を放っていた奴が姿を見せる。
「ウヒョッ!!獲物発見。こいつらがリュウの言っていた連中カ?」
耳障りな声だ。
声の主は入道のような大男。恐らくはガイよりも大きいので身長は190cm近い。
身長165cmのブラックから見ればまさに巨人だ。
他の団員と同じように山を模したマグマ団のマークが入ったフード付きのシャツを着ている。
しかし装飾が他の団員よりも豪華なので幹部級の人間だとわかる。
「長髪の大男、コウに渡されたリストに載っていた男だ。確か名は……」
ブラックが思い出し終わる前に新たな人影が現れた。
「ちょっとホムラ、勝手な事しないでよ。私達の目的はあくまでアレの奪取なんだからね。」
ホムラと呼ばれた男と似た風体の女。
こちらはそんなに背は高く無い。年は20代後半から30代前半といったところか。
「カガリ、何言ってんだヨ、どうせ敵なら葬らなきゃならんだろウ?」
「それはそうね。でもその前に一つ、彼らに聞きたい事があるの。
あなた達、一体どうやってここまで来たの?」
カガリがブラック達に呼びかける。

「あ?普通に歩いて来たが、それが何か?」
ガイはカガリの質問の趣旨を理解した上でわざととぼけて答えた。
「その間に居た団員はどうしたのよ?」
「団員?ゴミのような虫ケラなら腐る程処理したが、人間はいなかったな。」
まあガイにとって今までの団員がただの雑魚だったのは本当なわけで。
「そんな……200人は居たはずなのに……こいつら2人だけでそれを突破してきたと言うの……?」
カガリは少し思い違いをしている。
確かに、ガイは100人以上を一人で葬ったが、あとの連中はブラックが仲間と共に倒したのだ。
「ウヒョヒョ、やっぱり敵ダ。ぶっ殺して団長に献上ダ〜。」
ホムラには楽しめるかどうか、それだけが重要な事だった。
「気を付けなさい、ホムラ。こいつら、強いわよ。」
カガリが注意を促す。

「出ろ!!」
「やれ。」
「行くのよ!!」
「ウヒョー!!」
4人が同時にボールを投げる。
戦いは必然的にタッグバトルの体裁となった。
ブラックはハガネールしか手持ちが残っていないのでそれ以外出しようが無い。
ガイはハクリューを使っているが、先程と同じ個体かは不明だ。
そしてマグマ団の2人は、ホムラがバクーダ、カガリがゴルバットを出した。
「ウヒョヒョヒョ!!焼き尽くせ、火炎放射ダ!!」
最初に仕掛けて来たのはホムラだ。
バクーダはその有り余っている力を誇示するかのように派手に炎をまき散らす。
狙いは真っ直ぐ、2匹の密集している所。

「かわせ!!」
図体が大きい分、ハガネールの方がより多く動かないといけない。
一方、ハクリューは相変わらずアイコンタクトだけで回避運動に入っている。
「なるほど、性格はイカレているようだが戦い方は堅実だ。」
ガイが冷静に分析する。
「よそ見してんじゃないよっ!!」
いつの間にか、カガリのゴルバットがハクリューの背後に回り込んでいた。
「ほう、こちらもなかなかのものだ。」
ガイはそのスピードに感心している。
そう言っている間に、ゴルバットとハクリューの距離はどんどんと縮まっていく。

「翼で打つのよ!!」
ゴルバットがハクリューを射程に捉えた。だがハクリューは一向に動こうとしない。
「ち、割り込め、ハガネール!!」
ブラックのハガネールがハクリューとゴルバットの間に入り代わりに技を受ける。
すれ違いざまの一撃だが鋼の外殻を破るほどの威力は無い。

「ブラック、助かった。」
ガイが礼を言う。
「何言ってんだ?あの程度、軽く避けれただろ?」
「まあな。だがあんたがあの攻撃を受けてくれたおかげで敵の戦闘力がだいたい把握できた。」
「何を掴んだ?」
「まずあのホムラという男のバクーダは威力、命中性は申し分ないが、
ハガネールがかわす事ができたように非常に技の速度が遅い。
反対にカガリのゴルバットは速いが威力は低い。」
この事からブラックも瞬時に判断がついた。
要するにブラックが注意すべきはホムラの動向のみで、ゴルバットの攻撃は無視してもかまわないという事だ。
「で、お前はどうなんだ、ガイ?
俺に注意を促しておきながらお前だけ致命傷をくらうなんてのは格好つかないぞ。」
「ゴルバットの方を注意しなければならないだろう。
オレのハクリューはその特出した機動力と火力の代わりに防御力は紙に等しい。」

思い出すまでもなく、ガイは今までに一度として攻撃を受けていない。
それは全てよけたのでは無く、避けざるを得なかったのだ。
そんなガイにとって、バクーダの攻撃は避けれて当たり前なのである。
「ゴルバット、毒々の牙!!」
「ウヒョッ、ウヒョヒョ、ヒョヒョヒョヒョ。
噴火ダー!!潰せ蹴散らせなぎ払エェッ!!」
バクーダが背中の火口から火砕流を噴き出す。
その合間を縫うようにして一気に距離を詰めるゴルバット。
敵はブラック達が火砕流をかわすのに苦心している隙を突いて攻撃をする気のようだ。
「どうする?」
ブラックがガイに聞く。
「この状況でできる事は一つしか無いと思うが?」
「そうだな。ハガネール、砂嵐!!」

ハガネールの技発動と同時にハクリューも竜巻を起こす。
目的は簡単だ。まず第1に噴火の防御。火砕流の軌道を逸らす事で余計な動作をせずに済む。
そして次に迫り来るゴルバットの視界を奪う事。
巻き上げられた火砕流と塵により、ゴルバットは一時的にだがハガネールとハクリューの位置を見失った。
ここからがガイとブラックの反撃の開始である。
この隙にハクリューはゴルバットを、ハガネールはバクーダを狙う。
「ハガネール、アイアンテール!!」
ブラックの戦闘は基本的に接近するところから始まる。
遠距離の技はあくまでも接近する為の補助用にしか使わない。
そしてブラックの近距離技は全てが一撃必殺の威力を秘めている。だが……

「ウヒョ、そう来なくちゃ面白く無いゼ。こっちも地震ダ!!」
ホムラの判断は極めて的確な物だった。
バクーダが地面を揺らす。鋼ポケモンにとって地面技は非常に苦手なものだ。
「くっ、退け!!」
ハガネールは地震の影響を減らす為に退却せざるを得なかった。
ホムラにはブラックに接近されないだけの力があるのだ。

「ちぃっ!!」
逆にガイはゴルバットに肉薄されていて攻撃体勢に移れない。
動きが止まった瞬間を狙っての攻撃の予定だったが、敵はそこに突っ込んできたのだ。
「あははは、もっとやりなさい、ゴルバット!!」
スピードはハクリューの方が上回っているのだが、
逃げるよりも追う方が軌道が短くなるもので、なかなか引き離せない。
「仕方ない。やるぞ、スサノオ!!」
だがガイは近距離での策があった。
ハクリューの角からまっすぐ放出される青白い光。俗に言う零距離という奴だ。

「破壊光線?だけどこれを避ければ……ゴルバット、影分身よ!!」
カガリも流石にマグマ団幹部なだけはあり、ハクリューの攻撃開始の瞬間には既に回避運動をし始めていた。
ゴルバットはギリギリの所で射線上から外れる。
だが、両者の距離があまりに近かったせいか、ゴルバットの羽を光が掠める。と、

ギャアァァ!!
ゴルバットが悲鳴をあげた。
「オレは一度もこの技が破壊光線だなんて言ってないが?」
とてつもなく高圧の電撃はまっすぐ直進する。
このハクリューの「10万ボルト」がカガリには破壊光線のように見えたのはその為だ。
もっとも、この場合電圧は10万ボルトではすまないだろう。
雷光に僅かにでも触れれば、そこから電流が体中を駆け巡る事になる。
ただ、翼にかすっただけなので一撃で致命傷になるほどではなかった。
落下するゴルバットをバクーダがフォローする。
「まだ行けるカ?」
「なんとかね。ちょっと油断したわ。もうあの手には乗らない。」
そう言うとカガリはゴルバットをバクーダの上に待機させる。

「もう一度いくぞ、ハガネール!!」
ブラックがその2体に接近を試みる。
「バクーダ、火炎放射ダ!!」
すかさず迎撃にでるホムラ。
ガイのハクリューが電撃でその火炎放射を相殺し、ブラックを手助けする。
「無駄よ。エアカッター!!」
だがゴルバットがエアカッターを発射し、ハガネールの足場を乱す。
ハガネールに直接当ててもダメージが期待できないのを理解した上での攻撃だ。
その状況を見てもう一度ガイが助けとして雷を放つ。
だがゴルバットはバクーダを盾にしてそれを防いでしまった。

「電気以外の技使えよ。」
バクーダに電気タイプの技が効かないのは明白である。
「って言ってもな、このスサノオは電気特化なせいで竜巻以外は全部電気技なんだよな。
まあ完全にオレのミスだ。」
竜巻はあくまでも雑魚の一掃と牽制が主な使い方であり、
ある程度耐久性のある強力なポケモン相手には意味をなさない。
先程のドラゴンタイプ特化のクサナギならこうなってはいなかっただろうが。
現在、敵の攻撃は分散しているからなんとかかわせている。
なので交換しようにも、その間あの2体の猛攻をブラック一人で請け負うのは無理そうだ。

「つまり決着をつけられるのは俺のハガネールだけか……」
だがそのハガネールの必殺技アイアンテールは接近しないと使えない。
しかもバクーダは炎タイプなのでダメージは半減させられてしまう。
一撃で決めなければこちらがやられてしまうので、如何にして倒すか、それが問題だ。
「なあブラック、体力はどれくらい残っている?」
「ハガネールはさっき地震をくらったからな。あまり多くはない。」
「違う違う、お前自身の体力だ。」
そう言われてブラックはピンときた。
「そうだな、5段階ぐらいはまだなんとか。」
ガイの質問はブラックの能力、パワービルダーに回せる体力の残量を聞いていたのだ。
「そりゃ十分だ。あのバクーダならあんたのハガネールの攻撃力を3段階強化すれば落とせるだろう。」
しかし、まだどのように接近するかという問題が残っている。

ブラックはとりあえずガイの言うとおりにハガネールに強化を施す。
敵の攻撃の合間を縫って接触しなければならないのでなかなか危険な作業である。
「ハガネール、砂嵐!!」
そして砂嵐の発動。これもガイの指示によるものだ。
「今だスサノオ、やれ!!」
何をとち狂ったのか、ガイのハクリューがブラックのハガネールに全力で竜巻を放ってきた。
「お、おい!?」
突然の展開にブラックも動揺する。
「大丈夫だ。見ろ。」
なんと、ハガネールの巨体が地面から離れ始めた。
竜巻と砂嵐の相乗効果で強められた風がハガネールを浮遊させているのだ。
勿論、ハガネールも竜巻によるダメージを受ける事にはなるが、
そこはガイがきちんと調整して瀕死にならないようしてある。
これならバクーダの地震を受ける事も無く近づける。

「ウヒョッ!?ハガネールが空飛んでやがル。」
「驚いてないで迎撃しな。今なら恰好の的だよ。」
空中で軌道を制御する術を持たないハガネールの進路を予測するのは容易い。
「バクーダ、噴火ダ、落とセ!!」
バクーダの背から再び火砕流が吐き出される。
「そうはさせないさ。」
ガイのハクリューが電撃波でそれを破砕する。
正確に、それもハガネールに直撃する軌道のものだけを打ち落とす。
ゴルバットの攻撃はハガネールに大したダメージも軌道の変更もさせないので無視している。
「行けっ、アイアンテールッ!!」
落下時の重力加速度を上乗せし更に威力を増した鋼鉄の尾は見事にバクーダを捉える。

バキッ!!
バクーダとゴルバットを同時に上から叩きつける。
凄まじい衝撃で地面がえぐれた。
「おまけだ、もう一発!!」
今度は横なぎに払いバクーダをぶっ飛ばす。
ヒュルルル……
バクーダは放物線を描き、ホムラの頭上へと飛んでくる。
「ウヒョ?」
ドサッ
そのままホムラはバクーダの下敷きになってしまった。
どうやらバクーダもホムラも気絶してしまったようだ。
「勝負あったようだな。」
ガイが勝ち誇る。カガリはその場で力無くへたり込んでしまった。
「こ、こんな事って……」
カガリも流石に2対1で戦いを挑んでくるような事はしなかった。
勝てない勝負をする奴は二流のトレーナーだ。


「で、こいつらどうする?」
このまま放っておいたら逃げられてしまうだろうし、連れて行くにはお荷物になる。
「このままスサノオに見張らせてオレ達は先に行くのが得策だろう。」
「ポケモン1匹で大丈夫なのか?」
トレーナーなしのポケモンに見張らせるのは不安が残る。
「巻き付いて拘束しておけば問題はない。
だが念のため、もし少しでも逃げるような素振りを見せたら麻痺させて動けなくさせるように命令を与えておこう。」
普通、ポケモンはその場限りの命令しか受け付けないはずだ。
そのポケモンが複雑な命令を守り続けるとは、よほど賢くないとできない芸当だ。
そもそも、アイコンタクトだけで命令を聞く所からして賢くないとできないだろうが。
「有効な情報源として活用できそうだし、本部でゆっくりと拷問にでもかけてやるとするか。」
ブラックがニヤリと笑った。



「敵サメハダー、左舷に接近!!距離150、かわせない!!」
ソナー要員のミナが叫ぶ。
「総員、耐ショック体勢!!」
アベルの命令に全員、近くの手すりなどを掴んだ。
ドンッッ!!
サメハダーのロケット頭突きが船体を揺らす。
「第3区画浸水!!」
サイゾーの報告に緊張が走る。
「慌てるな。この程度ならバルブを閉めるだけで大丈夫だ。」
アベルが皆を落ち着かせる。
「ったく、敵も容赦がないぜ。死んだらどうする気だ。」
「殺す気でやってきているんだから当たり前だろう。無駄口を叩くな。」
ジュンのぼやきをアベルが注意する。

光の届かぬ深度1200mの海。
常に100s/cu以上の水圧がかかる、宇宙よりも過酷な環境では僅かな亀裂が命取りになる。
魚雷も使用不能な為、主な戦闘はポケモン頼りになってしまうのが現状だ。
ポケモンを海中戦で使う利点はまず敵への攻撃の命中性が魚雷より高いという事にある。
80ノットというスピードと、デコイやバッフルズにも惑わされる事のない索敵能力が確実性を上げているのだ。
「よし、今度は反撃だぜ!!ジーランス、突進!!」
勝手に砲雷長を名乗っているジュンが攻撃を指示する。
ジーランスは指定された目標、即ちアクア団潜水艦へと直進する。あと200。
これなら確実に命中する。
だが。

「ジーランス、衝突直前に何かに弾かれました。」
ミナが報告する。
ジーランスの推進音は衝突音を出さずに全く別方向へと進路を変えたのだ。
「何ぃ!?」
圧壊音を期待していただけにジュンは落胆した。
「原因は?」
アベルが問う。
「衝突の数秒前に敵潜水艦の量子反応が局地的に変化しました。
恐らく人工リフレクターかと思われます。」
ソナー以外の計器のチェックはサイゾーが担当している。
量子反応測定器には確かに潜水艦本体からの量子物質を捉えていた。

「人工リフレクターを水中で使っただと?そんな物の発生装置が積んであったのか。」
ジュンの疑問はひとまず解消されたが、この事実は新たな疑問を生んだ。
即ち、水中で人工リフレクターを張る技術はまだ存在していないはずなのだ。
人工リフレクターの技術そのものがまだ発表されて間もないのに、
常に水で満たされている水中で使えるように改良されるにはあまりに時間が無い。
つまりこの潜水艦に最初から装備されていたとは考えにくく、また後から付加するにもその技術の入手元が謎だ。
しかし、アベル達に今そんな事を考えていられる余裕はどうやら無いようだ。

「敵潜水艦、ダイブボールを多数発射!!このままだと実体化するのはこの鑑の真下50の位置よ!!」
「ならこちらもありったけのポケモンを出すしかなかろう。ここで決着をつける。」
アベルも船外に取り付けてあるダイブボールを外し、全て投下する。
「敵ポケモン、実体化します。数5、大きい……これはホエルオーです!!」
量子反応から推定された1匹当たりの大きさはおよそ15m。
そんなポケモンはホウエンにはホエルオーしかいない。

ガコン!!
ホエルオーと潜水艇が接触する。
「どうなっている?」
アベルが状況確認を急ぐ。
「鑑、強制的に浮上させられています。」
サイゾーが計器を確認し、答えを導く。
ホエルオー1体辺りの排水量は体重僅か600kgに対して約200t。
つまり合計1000tの浮力が潜水艦を押し上げる事になる。
「注水満タンにしろ!!艦を出来るだけ重くするんだ!!」
だが、それでも浮上は止まらない。
「ジーランス、ホエルオーを蹴散らせ、突進!!」
ジュンが半ば自棄になって命令を出す。
「やめろ。この距離では我々の艦も被害を受けるぞ!!」
こう密着されていては手出しできない。実によくできた作戦だ。

「艦長、ホエルオーの1匹がスクリューに接触しています。
このままではシャフトが折れる可能性もあります。」
つまりもうアベル達は身動き一つできない状態に陥ってしまった事になる。
「く、ここまででござるか……やむを得ない、このまま浮上する。」
下手に動いて損害を出すよりも、損害が出ない内に撤退した方が得策というものだ。
艦に万が一の事があればここで全員が海の藻屑という事もあり得る。
「くっそぉー!!」
ジュンの叫びが艦内をこだました。



「くっ、化け物め!!」
キュウコンがやられてからまだ5分と経たないうちに、
リュウのケッキングはスイバのメガニウムとトゲチックをほぼ一撃で倒してしまった。
混乱と火傷を負っていてもその超パワーは並のポケモンの比では無い。
「どうだい、スイバ。これが力の証明なのだよ。
もうお前に戦闘可能なポケモンは残っていない。おとなしくここで諦めるんだな。」
リュウが高らかに勝ち誇っている。

「まだだよ。僕はまだ戦える!!」
スイバの眼はまだ死んではいなかった。
「ほう、この状況で一体何をするというのだね?
まさかお前自身がこのケッキングに戦いを挑む気ではあるまい。
もっとも、生身の人間がこのケッキングにかなうとは到底思えないがな。」
スイバの銃を使ってもケッキングは恐らく痛くも痒くもないはずである。
もともとの身体能力が高くないスイバはそんな事はしない。

「リュウ、以前君は言っていたよね、切り札は最後にとっておくものだって。
僕はここでその切り札を使わせてもらうよ!!」
スイバは自らの力を手に握られたモンスターボールに込める。
するとそのボールは力強く輝きを放ち始めた。
「行け、メガニウム!!」
そして中からは先程ケッキングに倒されたはずのメガニウムが現れた。
「こ、これは……」
リュウは目の前で起きている事象を理解しようと必死に頭を働かせる。
普通、道具を使わずにポケモンが復活する事はまずあり得ない。

「これが僕の力、リフレッシャーだ。この能力はあらゆる状態異常を治す。」
リフレッシャーによって治るのは何も毒や麻痺だけでは無い。
メロメロ、ポケルス、そして瀕死まで、本当に「あらゆる」状態異常を治してしまうのだ。
更に、ポケモンの体力も僅かながらに回復する。
この力はブラック達とは違い戦闘を直接的に有利に進める力ではない。
しかし、自分のピンチを一瞬にして解消する可能性を秘めた、奥の手としては最高の力なのだ。

能力者との接触が能力発現を促す事がある。
スイバは4年前、リュウに出会った事がこの能力を得るきっかけとなった。
つまりこの力はリュウがスイバに与えたようなものなのだ。
「ハハハっ、面白い!!お前は実に面白い!!
さあ、今この瞬間、最高の愉悦を楽しもうじゃないかっ!!」
リュウにとって戦況は何も変わっていない。
所詮、雑魚ポケモンは雑魚のままだと思っているからだ。
なので余裕の表情は相変わらずそのままだ。
ただ、一つだけ変わった事は、この戦いがリュウの戦闘欲を満たすものになったという事だ。

「メガニウム、宿り木の種!!」
スイバが攻撃を始める。
ケッキングはメガニウムが飛ばした種を避けようともせずにまっすぐとメガニウムに迫っていった。
巻きついてくるつたなどお構いなしだ。
「ケッキング、気合いパンチ!!」
この距離まで接近されるともう避けようが無い。
直撃でなくてもその周囲に放たれる衝撃波だけで大抵のポケモンは倒されてしまうからだ。
スイバもその事を瞬時に判断してすぐに次のモンスターボールを用意した。
ドカッ!!
メガニウムは又もあっけなく倒されてしまう。

「メガニウム、戻れ!!次を頼むぞ、ラプラス!!」
スイバは再びポケモンを復活させて使う。
「…!! スイバッ、お前っ!!」
ようやくスイバの狙いを察知したリュウに初めて焦りが見える。
そう、スイバはケッキングが倒れるまで何度でも自分のポケモンを復活させる気なのだ。
宿り木と火傷のダメージ量を考えると、既にケッキングの耐久力はレッドゾーンに突入しているはずだ。
「『生きるか死ぬかの戦いに卑怯なんて言葉は存在しない』これも君の言葉だったはずだよ。」
ラプラスも冷凍ビームを一発ケッキングに与えるとそのまま気合いパンチによって沈んでいく。
そしてスイバは次にキュウコンへ交換した。

「良いのか?そんなやり方では先に倒れるのはお前の方だぞ。」
高度な力を駆使する程、体力の消費量は増大する。
ポケモンを復活させるには恐らく相当な量の体力消費があるはずだ。
「確かに、これを使えるのは後2回といった所だろう。
だけどね、この一撃でケッキングは倒せるんだ。火炎放射!!」
これが最後の一撃。スイバの気合いがこもった炎がケッキングを貫いた。

炎に焼かれ、ケッキングは完全に沈黙した。だがリュウは顔色を変える事は無かった。
「くっくっく、ははは、ハーハッハッハッ!!」
負けが信じられなくて発狂したのだろうか?いや違う。これは彼が楽しんでいる証拠だ。
「何がおかしいんだ?どう見ても勝ったのは僕だ。」
スイバはとてつもなく不快な気になった、いつまでも余裕を見せ続けるこの男に。
「何だ、こんな事で勝った気になっているのか。だからお前はいつまでも二流なんだよ。」
そう言って全ての手持ちのモンスターボールを解き放つ。
既に全員をスイバが倒しており、皆一様にぐったりとしていた。
そしてリュウが取り出したのはくたびれた巾着袋。
と、そのままその巾着袋の薄いピンク色の粉末をポケモン達にぶちまける。
その粉は空中をキラキラとしながら舞い、ポケモンに触れるとそのポケモンの傷を次々と治していく。

「な……」
スイバは自らの愚かさを実感した。
自分で言った時点で気付くべきだった。リュウはまだ切り札を隠し持っているという事に。
「ポケモンを復活させるのは別に能力なんか使わなくても可能さ。
ただ、先程は少々驚かせてもらったよ。まさか切り札の作戦がお前と私が同様だったとはね。」
これこそがリュウの切り札「聖なる灰」だ。
ジョウトに住む不死のポケモンの炎で焼かれた木の灰はとても美しく輝き、不思議な力を宿すという。
その力はどんな傷や病気も人だろうとポケモンだろうとたちまちに治す。
「まさかお前如きにこんな貴重品を使う羽目になるとは思っていなかったぞ。
よくここまで私を追い詰めた。だがもう終わりだ!!」
6体のポケモンがスイバを取り囲む。

スイバは絶望した。もうどう足掻いてもこの6体をまとめて相手出来るような方法は無い。
自分はこの男に勝つことができないという事が最もショックだった。
リュウはスイバを決して侮ったりしていない。
リュウのようなプロの賞金稼ぎはどんな危機的状況も想定して相手に戦いを挑む。
一方でスイバにはリュウがここまで様々な手段を駆使してくる事は想定していなかった。
その差は何よりも大きい。

「これまでなのか?もう……」
リュウへの敗北、それは死を意味する。
4年前は偶然逃げ切る事ができたが、今回はそうはいけそうにない。
「やれ!!」
フライゴンの砂地獄とバシャーモの蹴りで倒されるキュウコン。
壁となるポケモンがいなくなった今、残る標的はスイバだけだ。
拳を振り下ろすケッキング。
スイバにはもう防御する気力すら無かった。

「隊長ー!!」
間一髪、スイバの部下のポケモンがケッキングとスイバの間に割って入った。
その数10匹以上。
「何っ!!」
リュウと、そしてスイバはそこで周りの戦闘が終わっている事に始めて気が付いた。
それだけ自分達の戦いに熱中していたという事だ。
マグマ団員は全てやられていたが、オルドビスの人間は誰一人として無傷だ。
「馬鹿な、何故……こちらの方が圧倒的に数が多かったはずだ!!」
リュウが思考を必死に回転させる。
あれだけのマグマ団員と戦って無傷なポケモンがこれだけ残るのは有り得ない。
「簡単な事だ。ここら辺にいた屑共はこのオレが滅した。」
スイバ達の後ろから新たな声が聞こえてきた。

その青年は異様に目立つ格好をしていた。
まず目につくのは真紅のマント。見ているだけで目がチカチカするほどだ。
しかしマントの内側はジーパンとTシャツという割とラフな組み合わせである。
金色のメッシュがかかった髪と燃えるような赤い瞳は一度見たら忘れられない。
その男の脇には太陽の形をした岩ポケモン、ソルロックがいた。
「何者だ!?」
リュウは思わずお決まりのセリフを吐いてしまった。
しかしリュウの疑問はスイバの疑問でもある。
少なくともこの男はオルドビスでもマグマ団でも無い。

「オレを知らぬか、まあそれもいいだろう。
ならばしかと刻み込んでやるさ。最強のトレーナーの名をな!!」
なんだかやたら偉そうな奴である。この言葉が完全にリュウの闘志に火をつけた。
「ふん、最強だと?自惚れるのもいい加減にしろ。気合いパンチ!!」
ケッキングがその男に果敢に向かっていく。
それに対してソルロックがその男の前に出た。
ケッキングの拳はそのままソルロックを捉える。
「直撃!?」
端から見ていたスイバにはそのように見えた。
かすっただけで大抵のポケモンを倒してしまう化け物じみた威力のパンチだ。
あれでは助かるまい。

だが、次の瞬間、スイバは我が目を疑った。
ケッキングの拳がソルロックに触れるか触れないかのギリギリの所で止まったのだ。
そこに斥力が働き拳を拒んでいるようだ。
「っ!?!!」
リュウの驚きは声にもならない。スイバもこの状況が理解できないでいる。
「はあ、リフレクター程度で止められるとは、全く、一流の賞金稼ぎが聞いて呆れる。
貴様も所詮、雑魚に過ぎないのか。」
その男はため息をつきながら言った。その上リュウを雑魚扱いである。
もしかしたら本当に最強のトレーナーなのではないかとスイバにも思えてきた。

リュウは長い賞金稼ぎ生活の中でこんなにコケにされた事は無い。
だがここで熱くなってしまえば状況は悪くなるだけである。
あくまで心に余裕を持ち冷静に対処する事が重要だ。
そして考える。この赤の男に勝つためには一体何が必要なのか。
「ならばこれで!!」
リュウは何本かの量子注入機(ポケモン用の注射器)を取り出すとポケモン達にその物質を投与する。
瀕死から復活のプロセスを経た今のケッキングには破壊の遺伝子の効果はもう無い。
だったら再び投与するだけの話だ。これで攻撃力は4倍に跳ね上がる。
そして今度は他のポケモンにもそれを与える。出し惜しみは一切しない。
更にリュウは自らの腕にも別の薬を注入する。
前回、自分の体力が限界に来た事も撤退の要因となった。
その反省を活かし、今回は自分用の栄養剤も持ってきていたのだ。

「なるほど、確かに賞金稼ぎらしい的確な判断だな。
だが残念な事に貴様はオレに触れる事すらできない。」
大した自信だ。さっきまでのリュウもここまで自信に溢れてはいなかった。
「私に倒されてから後悔しても知らんぞ!!」
リュウの叫びと共にケッキングが跳躍し、ソルロックに対し右斜め上から攻める。
「ケッキング、破壊光線!!」
ケッキング最強の一撃はソルロックを光に包み込みそのまま地面をも貫通する。
今度こそ本当に消し飛んだかと思われたが、跡を確認してもそこにソルロックの痕跡は無い。
リュウは慌てて視線を辺りに動かすと、ソルロックは既に空高く舞い上がっている。
あの位置ではケッキングの攻撃は届かない。
「バシャーモ跳べ、ブレイズキックだ。ボーマンダ、火炎放射でバシャーモを援護しろ!!」
今度は2匹同時に指示を出す。

バシャーモのZ座標がソルロックと同一になる。
バシャーモはその場で足に炎を纏い、蹴りを繰り出す。
しかし当たる直前、又もソルロックが消えた。
「どうやら貴様の目ではこのソルロックの動きを観測する事はできないようだなっ!!」
速い。この男のソルロックの機動性はスイバが見てきたどんなポケモンよりも高い。
気が付いた時にはもうソルロックはバシャーモの後ろに回り込んでいる。
そこにボーマンダの炎が迫る。避けられないように攻撃範囲が広められている。
しかしその攻撃もソルロックに届く事は無かった。
ソルロックの前に出現した不可視の力が炎を拡散、反射したのだ。
恐らくは光の壁を使ったのだろう。
「フライゴン、ドラゴンクロー!!」
それも予測の内に入れていたリュウは上から更に追い討ちをかける。
が、ソルロックは強烈な光を放ち、リュウのポケモン達の目を眩ました。
まるで太陽が二つになったかのような目映さである。

「そんなに見たいのなら見せてやろう。太陽の輝く様をなっ!!」
ソルロックが高空へと浮上する。
そしてリュウから見て丁度太陽とソルロックが重なりあった瞬間、急に日の光がきつくなった。
「天意はオレと共にあるっ!!」
これは天候操作系の技の一つ、「日本晴れ」だ。
強い日差しの力を吸収しソルロックの力は今、最大限に高まった。
そのまま閃光が空を覆い尽くし、辺りの全てを飲み込む。
「覚えておくんだな。
オレの名はアルバ・ゲイン!!天の導きにより王となる事を義務づけられた、最強のトレーナーだっ!!」

全てが光になった世界。そこは幻想のようであり、地獄のようでもある。
太陽の表面とは恐らくいつもこのような世界なのだろう。
光に焼き尽くされながらリュウが垣間見たのは真の力との壁。
自分の力が紛い物に過ぎない事を悟った時にはもう何もかもが遅かった。
「う、うあぁぁぁ!!」
リュウは意識が遠のいていくのを感じた……
「まさか一撃で……」
スイバには俄かに信じられない。
今眼前に見えるのは意識を失ったリュウとそのポケモン達。
先ほどまで自分があれだけ苦戦していたあのリュウがたった一発のソーラービームで葬られた。
それも6匹まとめて。
あまりに一方的な戦いだった。そしてスイバはこのアルバという男の力に恐怖を感じた。足に力が入らない。

「隊長、敵はいなくなりました。先を急ぎましょう。」
「あ?ああ。」
部下に促されてようやく自分達の目的を思い出す事ができた。
今は一刻も早く送り火山に行かなくてはいけない。
「どうした?狐につままれたような顔してるぜ?」
アルバは自分のせいだとはちっとも思わない。
「君は……」
そこまで言いかけてスイバは気付いた。
この男は確かにマグマ団やリュウを倒した。
しかしこの男が味方だという保証は何一つ無い。もしかしたら敵かもしれないのだ。
アルバはスイバの疑いの眼差しに気付いたのか、
「安心しな。オレは貴様らの敵じゃあない。ま、それは歩きながらでも話してやるよ。」
スイバとてこの男を敵に回す気は毛頭ない。先ほどの戦いを見たら誰だって戦う気をなくす。

アルバの話を要約するとこうだ。
詳しくは話せないらしいが、数年前、アルバ達はある事件に巻き込まれ、それは一見解決したかに見えた。
しかし、その事件には黒幕とも言える存在がいて、それ以来、アルバ達はそいつらを追っている。
そいつらがマグマ団にも関わっているらしい。
「そいつらって何者なんだい?何故名前を伏せる必要がある?」
「奴らはとても強大だ。そしてとても身近にいる。
もしその名を知ってしまうと今後の生活に支障があるかもしれない。まあオレ位の強さがあれば関係ないが。」
実際の所、アルバ達も表立って「奴ら」と敵対はできない。
こうして奴らの企みを密かに抑えるのが精一杯なのだ。

スイバ達は再び自転車で移動を開始した。
アルバも手持ちの改造自転車に乗り、共に送り火山を目指す。
「妙だ。マグマ団の姿が見当たらない。まさかリュウ達だけって事は無いと思うんだけど……」
所々で戦闘の痕跡のように木や地面にダメージがある部分があるが、もう撤退したのかマグマ団の姿はない。
戦闘痕はどれも巨大で、まるで隕石が落下したかのようなクレーターやら、
台風が来た後のように木々が円形になぎ倒されていたりする。
「こっちの木に関して言えば、多分オレの味方がやった跡だと思う。
だがクレーターはアイツの仕業とは思えないな。」
これは加重をかけてポケモンを叩き潰した時にできる物だ。
アルバの知り合いにこのような戦い方をする奴がいない訳では無いが、彼は今別の仕事で手一杯なはずだ。
「多分、こっちは僕の味方だ。でも何で君の仲間と一緒なんだろう?」
よくよく見ればその痕跡が通常の攻撃力ではつかないものだとわかる。
しかしそうなると謎がまた増える。
「なら会って直接話せばいい。見えた、あれだな。」

湖に囲まれた雄大な山。一見するとマグマ団との戦闘が行われているとは到底思えない。
オルドビス第1部隊の面々とアルバは波乗りを使って山の追悼施設まで行く。
「お、無事だったかスイバ。」
やはり先客がいた。ブラックはボロボロになりながらもなんとかたどり着いたという感じの格好だ。
「あの戦闘痕はやっぱりブラックのだったんだね。
それにしても第2部隊の面々が見当たらないんだけど?」
ここにはブラック一人しかいない。
「ああ、あいつらは途中で帰した。
マグマ団の猛攻で殆どのポケモンが戦闘不能になっちまってな。
俺自身、後はハガネールしか残っていない。」
スイバ達を先に行かせるために大量のマグマ団と戦ったブラックだったが、
結局の所スイバよりも先に来てしまった。

「駄目だ、もうもぬけの空だ。珠も奪われている。」
奥の方から群青のマントを羽織った青年、ガイが現れて抑揚のない声で言った。
「ちっ!!やはり察知するのが遅すぎたか。まさかオレ達が出し抜かれるとはな。」
「そこはやっぱりリュウの存在が大きいと思う。
今回、こっちでも察知が遅れたのは以前にコウが関わっている事がバレたからだしね。」
「とりあえずコウに連絡をとろう。現状を把握しないと俺達は動きようがない。」
ブラックは自分の無線通信機を取り出す。
妨害電波を出していたと思われる装置は先ほどガイが破壊したのでもう連絡可能なはずだ。

「こちらO2T24A、ブラックだ。O5S31B、応答願う。」
「こちらO5S31Bヘキルよ。ブラック、無事だったのね。心配してたわよ〜。」
てっきりコウが出るかと思っていたブラックは多少驚いた。
しかし、長年姉弟をやっているとこの位は慣れっこだ。
ヘキルが代わりに出ているという事はコウはまだ何かを調べているか作業しているに違いない。
「じゃあ姉貴、現在の状況がどんなか確認できる?」
「まずアベル君達は失敗しちゃったみたいよ。さっきこっちに戻ってくるって連絡があったわ。」
マグマだけでなくアクア団も取り逃がしてしまったのはかなり痛手だ。
オルドビスにはもう両面作戦を展開できるほどの余力はない。
「こっちはマグマ団に珠を奪われた。
ポケモンも相当疲弊しているからこれ以上戦闘できそうにないな。」
「マグマ団の脱出はこっちでも30分前に確認できているわ。
コウちゃんも必死になって警備プログラムを操作していたみたいだけど、流石に限界があったみたいね。」
30分。それがブラック達の命運をはっきりと分けた。ブラックの顔も曇る。
「どうなんだい、ブラック?」
スイバも現状が気になるようだ。
「とりあえず最悪の方向に事態が向かっていそうだ。」

今緊急で対処しないといけないのはまずマグマ団だ。
マグマ団には既にグラードンを復活させるための準備が揃ってしまっている。
海中のアクア団も気になるところだが、こちらはマグマ団程の危険性はないだろう。
なんにしろ、一刻も早い対策が必要だ。
「あ、そうそう。さっきブラック宛てのメッセージを預かったの。」
「俺宛て?」
この状況でメッセージなど差し出す人間はブラックには見当がつかない。
親からの連絡ならヘキルがわざわざこのタイミングで言うはずがないからだ。
「『ミナモにて待つ』だそうよ。ダイゴ君からね。」
「ダイゴから!?」
全く知らない仲ではないが、ブラックは別にダイゴと親しいわけではない。
それに今、何故そんなメッセージを送ってきたのか、それもさっぱりだ。
一体ミナモシティに何があるというのだろうか。

「実はまだコウちゃんの作業を手伝わないといけないの。
伝える事は伝えたし、じゃあまた後でね〜。」
「あ、ちょっと待っ……」
もう通信は切れていた。
ブラックの側から連絡をしたのに、最後は一方的な通信になっていた気がする。
ここで姉の事をとやかく言う暇はないのでとりあえず今ここにいる面子で対応を決めなくてはならない。
ブラックは今のやりとりを全て話した。
「ダイゴならオレ達の協力者だ。」
ガイから意外な言葉が飛び出した。
彼の今までの行動から何人かの協力者がいる事がブラックにも推察できていたが、それがダイゴだったのだ。
「アイツがミナモに来いって言ってるなら、多分アイツなりの対策ができたんだろう。」
と、アルバ。彼もまたダイゴの理解者である。
ここ数週間、アルバとガイは彼の補佐目的で様々な活動をしてきた。
しかし対策を話すべきかどうかの最終判断はダイゴに任せなければならないので、
まだ内容はブラックには言えない。

「恐らくオルドビス内にダイゴの知り合いはあんたぐらいしかいなかったんだろう。
ともあれ、あれはあんた宛てのメッセージだ。行くかどうかはあんたが決めろ。」
ガイがブラックに判断を促す。
「よし、わかった。ミナモに行ってみよう。」
この位置からなら大した距離はないので、半日あれば基地にも戻れる。
ダイゴの方策とやらを見てからでもマグマ団への対応は間に合うとブラックは判断した。
マグマ団もあれだけの作戦後すぐに目覚めの祠を攻めるような事はできないはずだからだ。
それに今後の作戦を立てる上でガイやアルバといった強力な戦力を当てにできるなら心強い。

「貴様らの案内はこっちでやってやろう。どっちみちオレらは一旦戻らないとならないんでね。」
アルバとガイはブラックがどう判断しようと関係なくミナモに行っただろう。
「僕もブラックについて行くよ。」
ミナモデパートはデボンの系列企業が経営しているので、スイバの部隊への補給もできる。
「ならとっとと行くぞ。俺達には時間が無いからな!!」(第5章・終)



第4章「錯綜」へ     戻る     TOPへ     第6章「封印」へ