第四回 大型量子サーバーによる電子凍結保存法


前回の講義で一人のトレーナーは6匹までしかポケモンを所有できなくなったという事と、それ以上のポケモンはサポーターのもとに預けられるという事を説明した。
実は、モンスターボールの中で電子化された状態でもポケモンの時間は進む為、定期的に中から出して餌を与えなければならない。
食事の問題だけでなく、排泄や風呂、その他の手間を考えると、ポケモンを育てるという事がとても大変だという事が分かってもらえると思う。
その為、トレーナーは面倒見の良いサポーターに応援してもらう事が必須となっていた。
つい8年前までは、の話だが。
8年前、ある物が発表されてトレーナーはあまりサポーターを必要としなくなった。

━━以下マサキ氏の研究レポートPY-21より━━

ポケモンは電子化する事が出来るわけだが、更にそれ以上の状態に変換出来ないかと私は考えた。
そして私はこの電子凍結保存法を発見した。
これはポケモンのデータを特殊なアーカイブに圧縮する事によってあらゆる活動を強制的に休止させるというものだ。
しかし圧縮と言っても、動作中のデータや記憶領域も凍結させる為、データ量はむしろ圧縮前よりも増えてしまう。
しかしこの方法ならば凍結期間中は全く世話をしなくても良い。

圧縮と解凍を繰り返してもデータの損耗が起こらないように調整もしてあるので安全面も確保してある。
ただし、もしそのポケモンを保存している記憶媒体が破壊されてしまうと、そのポケモンはこの世から完全に消え去ってしまうだろう。

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普段は関西弁で話すというマサキ氏だが、流石にレポートは標準語だった。
このレポートの発表後、彼は地元企業と協力して全く新しいサービスを開始する。
当時、飛躍的に電子技術が発達した為に超大型の量子コンピューターが数多く製作されていた。
彼はその開発企業と組んで自らの開発した圧縮技術を利用しポケモンを無料で預かる事にしたのだ。
ただ、無料なのは30匹まででそれ以上は有料会員にならないと預けられないシステムになっており、多くのポケモンを持つ大抵のトレーナーは有料会員になった。
これを運営資金として更にサーバーを拡大した結果、彼のサーバー容量は5万エクサバイト(1エクサは10の18乗)、会員は30万人、預かっている総ポケモン数は700万匹に及ぶ超巨大な事業と化したのだ。
彼のあげる利益は企業に匹敵し、その巨額の資金でまだ何か新しい研究をしているようだ。

だが一方で彼のせいでポケモンを道具のように使う輩が増えたと指摘する人々もいる。
結論から言ってしまえばこの指摘は正しい。
少しでも強いポケモンを求めての乱獲やポケモンの虐待が問題になり始めたのもマサキ氏がこの事業を開始した後のことだ。
皆さんはそのような心無いトレーナーにはならないで欲しい。


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